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Clap!!

 昼食の席で長々しいため息をつけば、向かい側のリリーに苦笑された。

「気にしすぎ」
「……気にもするよ」

 俺はじと目でリリーを見返す。あらごめんなさい、とリリーは言うが、絶対に悪く思っていない。
 さきほどまで俺たちは変身術の講義を受けていた。いつも通り、理論を学んだ後に実際に杖を振る段階に入った。そして例のごとくとんちんかんな魔法術を披露した俺にとうとう教授はのたまった。

『あなたには才能がないわけではありませんが、センスが多少ずれているようですね』

 おまけに その顔にあきらめの表情が浮かんでいれば、もうへこむしかない。大好きなベリータルトにもちっとも心が弾まない。むしろ、食べもしないのに ぼろぼろと崩すばかりで、顔をしかめたリリーにフォークを取りあげられた。

「なんでだろう…なんでよりにもよって変身術なんだろう」

 最悪なのはその科目を担当しているのが我らが寮監だということだ。
 自分でいうのもなんだが、ほかの科目は特別苦労しなくてもこなせる。けれども、変身術だけは別だ。決して不真面目に取り組んでいるわけではないのになぜか、俺の術がかかったものは、変わるべきものから少しずれた姿で現れた。最近は変身させるものそのものではなく、変わるかもしれない少しずれたものを自ら想定して術をかける始末だ。それも大した成果をあげていないけれども。
 懲りもせずに項垂れつづける俺をリリーが呼ぶ。困ったように眉を下げた その手にはベリータルト。差しだされるそれに俺は自然と口を開けてかじりついた。タルト生地のさくさくとした食感を口の中で感じながらリリーを見つめる。彼女はなにがおかしいのかふふっと笑みをこぼす。

「才能がないって言われたわけじゃないでしょう」
「でもセンスがないって」
「センスはみがくものよ。どうにもならないものじゃない。ね、だからたくさん練習しましょう」

 私もつきあうから――そう言って彼女は笑いかけてくる。
 俺はすこしの間 無言でその笑顔を見つめる。そうして差しだされたままの残りのタルトをさっと取りあげると、口に放った。



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