拍手お礼4 (in日本)  ※時間軸は、原作最終回後です。





「買~い物~♪買~い物~♪わったぬ~きの、おっつか~いだ~♪」

 小狼の持つ手提げ鞄の中から、陽気な歌声が流れてくる。

 よく知るそれよりも少し低めの声に、ピクピクと動く耳は白ではなく黒。白き

魔法生物とそっくりな見た目を持つその黒い生き物は、名前まで同じ「モコナ」

というらしい。ただし、一応あるらしい性別は、男。

「おい、んなデケェ声で歌ってて大丈夫なのかよ」

 小狼の右隣を行く黒鋼が、小声で鞄の中に声を落とす。眉間に皺を寄せた

その顔を、黒い生物は「おう!」と元気よく振り仰いだ。

「安心しろ!他の誰かが近づいてきたら、ちゃーんと黙るからな。問題な

い!」

「おまえ、気配なんて分かんのか?」

「バッチリ分かるぞ!モコナ108の秘密技の一つだからな!そして、スー

パーへの道案内をするのも、秘密技の一つなのだ~!」

「おまえもあるのかよ、しかも108つ……」

「ほんとに一緒なんだねぇ、オレ達と旅してきたモコナと。頼もしいよ」

 小狼の左から、ファイも鞄へと顔を伸ばす。かけられた言葉に、黒き生物は

ふふん、と誇らしげに笑った。





 小狼達3人と1匹が玖桜国を旅立ってから、520日。次元の風を抜け降り

立ったそこは、見覚えのある次元の魔女の店だった。――いや、正確には

「元・次元の魔女の店」と呼ぶべきか。

 その店の店主として彼らを出迎えたのは、次元の魔女ではなく、四月一

日(わたぬき)だった。小狼が「もう一人の自分」と呼び、旅の間もずっと気に

かけていた存在。

 「いらっしゃい」と、安堵と痛みがない交ぜになった複雑な表情で迎え入れ

てくれた彼の店に、小狼達はしばらく厄介になることとなった。新たに始ま

ったこの旅の制約は、「モコナの耳飾りが光ったら次の世界にいかなければ

ならない」。しかしそれは、「モコナの耳飾りが光るまでは次の世界に移動

しなくてもよい」ということでもある。

 小狼と四月一日、2匹のモコナ、それぞれの久しぶりの再会に、彼らはこの

世界にギリギリまで留まる事を決めた。





「ところで、今日はこうしてオレ達が行ってるけど、普段は買い物とかどう

してるの?君が一人で行くってわけにもいかないだろうし……」

 いつまで店に世話になるのかはモコナの耳飾り次第なので不明だが、

無料(ただ)で居候というわけにもいかない。何か自分達にできることは

と問えば、四月一日から家事の手伝いと買い物を頼まれた。特に、買い物

は助かると。

 何しろ四月一日は、あの店を出ることができない。小狼と同じ、けれど真逆

の対価――時空に影響を与えないよう、同じ場所に留まり続けること――

を選んだから。

「いつもは買い物は百目鬼(どうめき)に頼むことが多いぞ。今日はモコナ

が頼んでおいた、ビールの新製品を買ってくるはずだ♪」

「あぁ、今夜お店に来るっていう、四月一日君と仲良しなお友達だっけ?」

「おう!いいコンビだぞ!まぁ、四月一日にこれ言ったら怒るだろうけどな。

そして何より!モコナと百目鬼は、もっとナイスな酒飲みコンビだ~♪」

「あはは、だったら黒りんも仲良くなれそうだね。よかったねー、黒りん」

「うるせぇ。おまえら、ちっとは小僧を見習って黙……――」

 「れ」という最後の音を、黒鋼はすんでのところで飲み込んだ。

 隣を行く少年。歩みを進めながらも彼が見詰めていたのは、鞄の中の生物

でもなければ、両脇のファイや黒鋼でもなく。



「できたよー!これ、被せてあげる!」

「えぇ?男が花なんて被るの?」

「別にいいじゃない♪綺麗でしょ?」

「それはそうだけど……って、うわわ!」

「いーから試しに!――ほら!やっぱり似合ってる」



 公園の片隅。シロツメクサの花冠を頭に載せて恥ずかしそうにしている

男の子と、それを嬉しそうに見ている女の子。

 幼い子供たちのそんな微笑ましい遣り取りを、小狼はただじっと見つめ

ていた。その横顔は、懐かしんでいるような、けれど、どこか痛みにも耐えて

いるような、そんな複雑なもので。

 黒鋼同様その様子に気づいたファイが口を開こうとし、黒鋼は無言で片手

を小狼の頭に載せようとした。が、二人よりも早く動いたのは、黒の魔法

生物。

 小さな身体で伸び上がると、鞄を掴んでいる小狼の手に自身のフワフワ

の手を重ねる。驚いたように見下ろす小狼を、さっきまでの様子が嘘のよう

に、真剣な表情で見詰めた。

「モコナ?」

「侑子が言ってた。強く願えば、夢も現実(ホントウ)になるって。だから四月

一日は、また会えるって信じてあの店でずっと待ってる、侑子のことを」

 小狼が僅かに瞠目する。

「小狼もそうだろう?今まで経験してきた現実(ホントウ)で、小狼は強くな

った。そしてその強さで願ってる、『サクラにまた逢いたい』って。『きっと逢え

る』って、強く信じてる」

「……。あぁ」

 瞠目していた瞳を戻し、真っ直ぐな声で小狼が頷く。その様に、モコナは

嬉しそうに笑った。

「それなら大丈夫だ。サクラも絶対、同じ気持ちで待っていてくれてる。それ

に、それが叶うまでは、もう一人のモコナや、この黒い忍者と白い魔術師

も傍にいるしな」

 もちろん、四月一日とモコナも、気持ちは小狼の傍にいるぞ!

 そう付け加え、小さな身体で胸を張る姿に、小狼はようやく表情を緩めた。

「あぁ、そうだな。……ありがとう」





「ほんとに同じなんだねぇ、オレ達と旅してきたモコナと」

 感嘆の混ざった声で、ファイが微笑む。

 ファイや黒鋼でさえ、小狼から少し過去話を聴いただけで、実際に小狼と

サクラにかつてあの子供達と似たような場面があったかどうかなど知らな

い。ましてやこの黒いモコナは、昨日小狼と会ったばかりだと云ってもよい

ぐらいで。

 それでもこの黒き魔法生物は、小狼の心を読み取った。“思考”の詳細

などではなく、一瞬の「寂しさ」と「不安」が過った“気持ち”を。

 呟くようなファイの言葉に対し、黒鋼はふん、と小さく鼻を鳴らすのみ。けれ

ど、ニヤリと口端を上げたその顔は、決して否定などではなくて。

「よーし!それじゃあ元気も出たところで、みんなでスーパーまで走るぞー!!

レッツ・ゴー♪」

「って、てめえはただ鞄に入ってるだけだろうが、黒まんじゅう!」

 すかさずツッコミを入れる黒鋼に、「ほらね、同じだー」とファイが笑う。

 そして今度は小狼も、ファイと一緒になって小さく声を上げて笑った。





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★「xxxHOLiC」18巻に収録された、ツバサキャラ再登場の短編を基に書いて

みました。(未読の方でもこの拍手文を読めるよう、一応、文中でザックリと状況

説明は入れましたが。)

 小狼君の本当の名前は最終巻で明かされましたが、「xxxHOLiC」18巻では

みんなから「小狼」と呼ばれていたので、そちらに合わせて書きました。それに、

「小狼」と書いた方が、読む時にしっくりきますしね。(笑)



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