すきだ、って言えない。
死んでも、言えそうにない。
洋平はいつだって俺の近くにいて、
手を伸ばせば届きそうなのに、
触れたい指先が震えて、時折涙がこぼれそうになる。
でも、泣けない。


「どうした、花道」


俯く俺の表情を、心配そうに洋平が覗き込む。
いつもは鋭い目つきをしているのに、
俺を見つめる洋平の眼差しは、
まるで春風のように優しい。


「なんでもねえ」


嘘だ。洋平が微笑むように俺を見つめるから、
指先から、心臓から、足のつま先まで、
バクバクと揺れる鼓動に合わせて震えている。


「それはなんでもない、ってツラじゃねえな、花道」


洋平が片方の眉を心持ち下げて、苦笑いする。
俺には話してくれないか、という表情だ。
洋平は優し過ぎるから、
こんな俺でも放っておけないのだろう。
その優しさが、今はつらい。


「俺にも、言えないことか?」


こんなとき、洋平は決して無理強いはしないで、
逃げ道を作ってくれる。一瞬だけ、洋平の目に
寂しさの色を垣間見た気がするけれど、
穏やかで、どこか仕方ない、と許すような口調に
甘えてしまう。


「ゴメン」
「どうして謝るんだ。お前は何も悪いことしてないだろ」


洋平、好きになって、ゴメン。
手を繋ぎたい、洋平の指先を欲しがって、ゴメン。
何も言えないのに、そばを離れられなくて、ゴメン。


「洋平、オレ、さ」
「どうした?」
「本当に大好きな人に、振り向いてもらう才能、
ねーんだ……」
「それは晴子ちゃんのことか?」


俺は静かに首を横に振った。
だんだんと、想いがあふれて、声が震える。


「洋平、俺、晴子さんより、今まで好きになった誰より、
好きになった人がいるんだ……」
「それは俺が知ってる奴か?」


心なしか、洋平の声が震えて聞こえた。
泣くまいと俯いていた顔を上げると、
洋平がどこか悲しそうな目で、笑っている。
こんな洋平を見るのは初めてだった。


「花道、ごめん、な」
「え?」


気がつくと、俺は洋平の腕に抱き寄せられていた。


「花道の本気で好きになった奴に、お前は渡さない」
「それって……」
「誰にも渡す気なんか、ないんだ。
花道が他の誰かを好きでも。
今回の恋は本気だって、俺でもわかる。
こんなに危うげなお前は初めて見るよ、花道」
「あ……」


もしかして、と淡い期待が胸をよぎる。
けれども、それ以上に不安が大きい。
思わず涙がこぼれ落ちて、洋平の肩を濡らす。


「花道」
「……っ」
「お前に泣かれると、どうしたらいいかわからなくなる」


洋平が俺の紅い髪を優しく撫でる。
その慈しむような指先が愛しい。


「花道」
「……ん……?」
「愛してる」


ごめんな、と続く洋平の掠れるような声に、
ずっとあふれていた想いが込み上げて、全てが涙に変わる。


「俺も…、洋平を……愛してる………」


ボロボロに泣き崩れた顔で、花道が洋平を見つめると、
洋平の瞳から、雫が一筋こぼれ落ちた。










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