(東条)

河川敷に行けば、高い確率で季節外れの露店を開いているのは見た目にそぐわず小さい生き物が好きだと言う東条だ。近付いて行けば香ってくるのは香ばしい良い匂いについついお腹が空いてくる。

「こんにちは」
「おう、一人でどうした、珍しいな」

小さく顔を上げた東条は器用にたこ焼きをクルリと回転させる。
この露店で買ったのか、此処に来るまでたこ焼きを持って嬉しそうにしている子ども達数人とすれ違ったことを思い出す。そんな自分とて彼の焼くたこ焼きが好きで何度も足を運んでいる常連の一人だ。ただそれには男鹿や古市が大抵一緒で、喧嘩好きの男鹿と東条が喜々として喧嘩を開始してしまうのが悩みの種。しかし本人達はそんな事は知りもしないだろう。

「今日くらい一人で来ますよ。辰なんて連れて来たら喧嘩するでしょ」
「はは、違いねえな」
「…………呆れた。冗談だったのに」

体から力が抜けて、肩に下げた鞄の重みが増したような気がした。

「拗ねるなよ、オマケしてやるから」
「拗ねてませんって、オマケも良いです!」
「…何だ、たこ焼き食いに来たんじゃないのか?」
「そりゃ東条さんのたこ焼き美味しいから好きですけど」

そう告げれば嬉しそうに笑った彼の手が頭に置かれる。これじゃあまるで本当に子供だ。…それを喜んでいる自分も。

「って、そうじゃなくて!」
「?」
「はい、これ!!」
「ん?プレゼント?俺の誕生日は八月だぞ」
「バ レ ン タ イ ン ! !」

それまで今日がどういう日かも気が付いていなかったらしい東条が『あ、』と口を開く。
いつもご馳走さまです。
真面目に差し出すのは何だか恥ずかしいので、そう言いながら差し出せば。すると律儀にタオルで手を拭いてから受け取るものだから、何だか笑ってしまった。

(次は邦枝姐さん)
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