☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

拍手ありがとうございます。

拍手お礼SSは、学生時代の中x啓です(☆☆☆)
熟成された7年後とは一味違う、高慢でプライドの高い俺様な中嶋さんをお楽しみ頂ければ幸いです。


一番下に、メッセージ欄がありますので、
感想など、宜しければ一言お寄せ下さい。
明日への活力・執筆への原動力になります。


2016.6.1up


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


中嶋さんがもてるのは今に始まった事では無い。

バレンタインには山のようにチョコレートが届くとか、学園内だけには留まらず、
学園外でも人気が高いとか―――噂は其れこそ沢山ある。
そして、其の噂の殆どが真実であるという事も知っている。

しかし、実際に中嶋さんが告白されている場面を目撃するのは初めてだった。

昼休み―――学食でお昼を食べ終わった俺は、
中嶋さんの姿を学食内に見付けられず、少々がっかりしていた。

麗らかな陽射しに誘われて、
満腹後の気怠い身体で散歩がてら中庭から少し外れた道を歩いている時―――其の場に出くわしてしまった。

自分と同じ深緑色のネクタイをした小柄な学生が中嶋さんと向き合っていた。

俺の場所から見ても判る程に、其の細い肩が震えている。

「・・・好き、です―――・・」

か細く響く声が想いの深さを物語っていた。
対する中嶋さんは、無言の儘、必死に告白した1年生を冷たく見詰める。

「―――――・・・」

ぎり、と俺の胸が締め付けられた。

「好き、です―――・・・ずっと、・・・見ていました・・・」

冷酷とさえ取れる冴え冴えとした中嶋さんの視線に晒されながらも、
其の1年生は健気に想いを告げ続ける。

「―――――」

其れまで黙って聞いていた中嶋さんが、ひとつ溜め息をついた。

「・・・・・っ・・・」

どき、と俺の心臓が不協和音を奏でながら跳ね上がる。

「言いたい事は其れだけか。」

氷のような言葉が、時間さえも凍てつかせた。
穏やかに木の葉を揺らしながら吹き抜けていた風さえも止まったような気がした。

―――何時もそうだ。
俺は、痛む胸を片手で押さえる。

俺が勇気を振り絞って想いを告げても、そうか、と何時もはぐらかされてしまう。
中嶋さんから、好きだと言われた事は一度も無い。
もしかしたら、付き合っていると思っているのは俺だけで―――俺ばかりが中嶋さんを好きで、
でも中嶋さんは俺の事なんて何とも思っていないのかもしれない。
そんな恐怖が常に付き纏っていた。

俺に手を出すのも―――俺が都合が良い人間だからかもしれない。
そう考え始めてしまうと止まらなかった。
後は、奈落へと一直線に落ちて行くだけだ。

「―――時間の無駄だな。」

つまらなそうに眼鏡のブリッジを片手で押し上げると、中嶋さんは踵を返した。

冷たい態度だ。
俺は下唇を噛み締める。

「・・・待っ、て・・・待って下さいっ―――・・」

背を向けられた1年生は、必死の様子で食い下がる。

「ずっと好きだったんですっ―――・・・諦められませんっ・・・」

其の1年生は、中嶋さんの左腕を掴んで追い縋った。

どんなに必死に想いを告げたとしても、何時も決まって冷たくあしらわれるのだ。

「―――――」

何時の間にか、目の前の見知らぬ1年生と自分が重なって見えた。

「迷惑だ。」

其の言葉は、其の侭俺に発せられたように、胸に突き刺さる。

「聞こえなかったのか。迷惑だと言っている。」

俺は小さく息を飲んだ。
視線の先で、1年生の表情がみるみる青褪める。

俺は其れ以上見ていられなくて、そっと其の場を離れた。

「・・・・・っ・・・」

午後の授業の始まりを告げるチャイムに背中を押される儘、俺は逃げるように教室まで走った。





其の後、授業の内容は殆ど覚えていない。

頭の中では、先程の中嶋さんの素っ気ない態度と冷たい言葉が何度も繰り返され、
中嶋さんの目の前に立っているのは、何時も俺だった。

放課後になる頃には、一週間分の体力を使ったんじゃないかと思う程に疲れ切ってしまい、
俺はふらふらと覚束無い足取りで、其れでも律儀に毎日通い詰めている学生会室に向かう。

此の時間、学生会に居るのは決まって中嶋さんだけだ。

「・・・・」

どんな顔をして会えば良いのだろう。
今日は学生会の扉が一段と重く感じられた。
暫く考えあぐねた末、俺は観念して溜め息と一緒に扉をノックする。

「―――何をもたもたしている。入るならさっさと入れ。」

失礼します、と言い掛けた俺は、鋭く投げ掛けられた中嶋さんの言葉に息を飲み込むのと同時に、
挨拶の言葉も飲み込んでしまった。

「・・・は、い・・・」

項垂れて小さく返事をすると、俺は与えられた机へと行き、鞄を置く。

「其処に置いてある資料を部活ごとに分けてファイルしておけ。」

中嶋さんは顔も上げずに俺に指示を飛ばす。

「―――はい。」

俺はそんな冷たい横顔を俯き加減に見詰めながら、
鼻の奥がつん、と甘酸っぱくなるのを感じていた。

中嶋さんにとって、俺はどんな存在なのだろう。

身体だけの都合が良い存在なのだろうか。
都合が悪くなれば、さっきのように、迷惑だ、と切り捨てられるのだろうか。

中嶋さんにとっての都合の悪い相手とはどんな人物だろう。
好きだと煩く付き纏う事?
其れならば、素直に中嶋さんの言いなりになっている今の俺は、
中嶋さんにとって都合の良い人間という事になるのだろうか。

好きだと追い縋る事は許されないのだろうか―――あの1年生のように。
溢れる想いをぶつける事も出来ないのだろうか―――こんなにも好きなのに。

気付いたら、修正が効かない程、視界は歪んでいて、俺は慌てて袖口で目尻を乱暴に拭う。

「―――――・・・」

俺は上目遣いで、ちらりと中嶋さんの様子を伺った。
相変わらずパソコンの画面に向き合った儘、中嶋さんは此方に意識を向ける気配すら無い。

少し寂しい気持ちを感じながら、俺は小さく溜め息をついた。

「どうした?覗き見して、良心でも痛んだか。」

其の言葉に、はっとして俺は顔を上げる。

「―――――っ・・・」

中嶋さんが何時の間にか此方に視線向けていて、ぶつかった瞳が、意地悪く細められた。

昼休み―――俺が見ていた事、気付いていたんだ。

「――――っ」

かあ、と頬が熱くなる。
覗き見するつもりは無かったけれど―――実際、俺のした事は覗き見だ。

最後まで見ていられなくて逃げ出してしまったけれど、あの後、どうなったのだろう。

可愛らしい1年生に中嶋さんの気持ちが揺らがなかったのは嬉しかったけれど、
でも其れは、俺と付き合っているからだと素直に喜んで良いものなのか悩んでしまう。

好きだと言われた事も無いのに、付き合っていると言えるのだろうか。

中嶋さんにとって俺って―――。

「・・・どんな存在ですか・・・?」

「なに?」

不機嫌そうな中嶋さんの声がして―――其の時になって、
漸く俺は声に出して言ってしまった事に気付いた。

「――――ぁ、・・・」

今更聞かなかった事に等してくれないだろう。

怪訝そうな表情で俺を睨み付けている中嶋さんの様子に、
俺はごくり、と唾を飲み込んだ。

「・・・な、・・・中嶋さんにとって・・・俺は―――どんな存在ですか・・・?」

語尾が震えないよう平静を装いながら、俺は殊更ゆっくりとした口調で話す。

「―――何を言い出すのかと思えば、そんなくだらん事か。」

俺の言葉に中嶋さんは、やれやれ―――というように、溜め息をつきながら前髪をかき上げた。

「――――」

俺から視線を外すと、再びパソコンへと向き直る中嶋さんに、体温が一気に沸騰する。

「く、くだらなくなんか、ありませんっ・・・」

俺は声が震えるのも隠さず、大きな声を上げた。

「でかい声を出すな。聞こえている。」

溜め息と共に、きぃ、と椅子の背凭れを軋ませて俺に向き直ると、
中嶋さんは眼鏡のブリッジに片手を添えた。

「くだらんから、くだらんと言っただけだ。」

突き放すような其の言葉に、瞳の奥が急激に熱を帯びてくる。

「くだらなくないです・・・中嶋さんにとって俺は、どんな存在ですか?
只の都合が良い存在ですか?気が向いた時だけ構う玩具ですか?」

暴力的な言葉は止まる事を知らなくて、次から次へと口を継いで出てくる。

瞳に涙が溢れて来るのが判ったが、止める術を知らなかった。
中嶋さんを詰る声色は涙で嗄れ、俺は殆どパニックに近い状態になっていた。

「―――――っ、・・・」

不意に中嶋さんが立ち上がったものだから、ぶたれると思った訳ではないが―――反射的に俺は肩を竦める。

「・・・・・っ」

すると、力強く腕を掴まれ、其の侭引き寄せられた。

「―――――っ・・・ぁ、・・・」

ぶつかるようにして唇が合わさり、俺は驚いて目を見開く。

「―――――」

目の前に中嶋さんの長く綺麗に揃った睫毛が迫ってきて、どきり、と胸が高鳴った。

言葉を塞がれた形で大人しくさせられた俺は、
中嶋さんから与えられるキスに無意識の内に身体の力が抜けてしまう。
まるで宥めるみたいに中嶋さんは俺の唇を甘噛みしてきた。
びり、と甘い痺れが背中を駆け上がる。

「少し黙れ。」

唇が離れると、何処かしら怒ったような中嶋さんの声が聞こえてきて、
俺は自分自身が情けなくなり、再び涙が溢れてきた。

「・・・・・っ・・・」

先程まで泣きながら捲し立てていた俺が、今度は唇を噛み締めて無言の儘、
嗚咽を漏らし始めたので、中嶋さんは細く溜め息をつくと、俺の身体に腕を回してきた。

「突然、何を言い出すんだ、お前は―――・・・」

呆れたような其の物言いに、俺はしゃくりあげながら両手を握り締めた。

「だ、・・・だって―――・・・中嶋さんは一度も好きだと言ってくれない・・・俺ばかりがいつもいつも―――・・・」

其処で言葉が詰まり、俺はきつく唇を噛み締めた。
そうしないと、大声で泣き出してしまいそうだった。

「―――お前は、何を見て、何を感じてきたんだ。言葉にしないと判らないのか。」

そう言うと、中嶋さんの細く綺麗な指先が俺の顎を捉えた。

「―――――っ、・・・」

其の侭、上を向かされ、再び唇が落ちてくる。

先程の、愚図る子供をあやすような口付けではなく―――唇全体を覆うような
熱っぽく貪欲な口付けに襲われる。
貪るように何度も唇の角度を変え、
抉じ開けられた咥内に入り込んできた肉厚な舌先が粘膜を刺激するように撫でていく。

「―――――ぁっ、・・・」

頭の芯が痺れて、ぼぅとしてきた。
ふわふわと身体が火照ってきて、足元がふらつく。

「―――俺がこんな事をする相手が誰なのか、良く考えろ。」

中嶋さんの言葉に思考回路が追い付かない。
唇に囁き掛けるみたいに中嶋さんの吐息が頬を掠めていき、其れだけで頭がくらくらする。
俺は涙で歪んだ視界で中嶋さんを見上げた。

「お前に与えるキスは特別だろう?違うのか?」

既に立っていられなくなっていた俺は、
中嶋さんの腕に縋り付くみたいな格好になっていた。

「・・・は、い・・・」

心臓が煩い程脈打つ中、俺は熱に浮かされたみたいに頷く。

「判ったら、くだらん事を考えるな。お前は、俺の事だけ感じていれば良いんだよ。」

そう言って、中嶋さんは唇の端を持ち上げると不敵な笑みを浮かべた。

「――――」

俺は思わずむっとして眉を顰めながら、視線を逸らす。

「・・・中嶋さんは、狡いです・・・」

「狡いだと?」

俺が本気じゃないのはお見通しなんだろう。
自分で聞いていても判る程に拗ねた口調の俺を、中嶋さんは面白そうに見詰める。

「狡いし、意地悪です。」

こんな場面になっても、結局中嶋さんは、好きだとは一言も言ってくれない。
其れでも俺は中嶋さんの事を嫌いになれない。

其れどころか―――前よりも、もっと好きになってしまっている。
更にそんな俺の心境が中嶋さんには筒抜けなんだろうなと思うと、
悔しいやら腹が立つやら、自分自身が情けないやらで、どうしたら良いのか判らなくなってしまう。

「だが、そんな俺が好きなんだろう?」

ほら、やっぱり見透かされている。

にやり、と高慢に微笑む其の端正な顔立ちに、俺は諦めて溜め息をついた。
そうだ―――俺は、どんな事があっても中嶋さんの事が好きだ。
此れからも、きっとそれは変わらない。

此の想いはずっと続いていく。

「そうですよ―――大好きです。」

「知っている。」

ほら、いつもの素っ気ない答えが返ってくるだけだ。

其れでも―――まるで何かを囁くみたいに落ちてきた唇が、俺の唇をなぞってきて、
俺の胸が切なく高鳴る。

「――――・・・」

中嶋さんの与えてくれるキスは、何時でも―――不安も心配事も、
俺のくだらない嫉妬も悩み事も全部吹き飛ばして、甘く俺を痺れさせるんだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



明日への活力・執筆への原動力の為、感想などお寄せ下さい(拍手だけでも送れます)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。