「そんなの、有り得なくない?せっかくふたりでいるのによ?」
「男なんてそんなもんだよー」
「でもさ、前の彼氏とかはどっちかっていうと束縛きつくてさ」
「あー・・・」
ずぞぞ、と残り少ないオレンジジュースが氷の中で音を立てた。あたしは友人ふたりの話を聞きながら、手持ちぶさたにストローで氷をかき回している。
「毎日、メール電話メール電話の繰り返しでもうなんか疲れちゃって」
「いるねー、そういうの。女友達と会うんだって言っても信用してくれない」
「そう。あたしだってさ、好きだし会いたいし、その気持ちは分かるんだけどさ。やっぱ100パー彼氏だけってのは無理じゃない」
「そりゃそうだよ。その彼氏だって付き合いもあるだろうにねえ」
「それがさ、・・・・・お前のためだからとか言ってさー」
「うわ、うざっ」
「・・・よねえ」
かつかつと音を立てた氷はオレンジ色を溶かして、薄まっていく。こういう話って、何というか、・・・とても新鮮だ。だってあたしには持ちようの無い悩みだから。
「それで我慢できなくなっちゃってその人と別れたから、ある意味希望通りの彼氏ではあるんだけどね。今のは」
「いやでもそれはちょっと束縛酷すぎるよ。ね、麻衣」
「え」
突然話を振られて、あたしはグラスの中からストローを取りこぼした。
「うわ、ゴメン」
「ん、はい」
手渡されたストローをグラスの中に戻して、あたしは返事を考える。
「んーと、あんまりほったらかしなのは、寂しいよね」
「うん。適度に構って欲しいっていうの、我儘だと思う?」
「そんなこと、無い。と思うよ」
否定。だけどどこか曖昧な調子のあたしに、友人が首を傾げた。
「麻衣のとこは?」
「え?」
更に踏み込んで来られて、慌てたあたしは手からグラスを滑り落としてしまう。すぐ下がテーブルで良かった。
「あたしの、はー、・・・参考にならないと思う」
「えー?そうなの?」
不思議そうなその声に、あたしは思い切り深く頷いたけど、かえって彼女たちの好奇心を誘ってしまったようだった。
「ほったらかしが寂しいってことは、放任?」
放任というか・・・・、
「・・・・・・むしろ放置?」
なにそれーときゃっきゃと笑われて、いや、本当だしとあたしは苦く笑う。
「構うも構わないも無いんだよ。だから構って欲しい時は構ってって言うようにしてる」
「へえ」
「・・・・でももちろん嫌がられるから」
「嫌がるの?」
「もちろん。だから勝手に居座ったり、脅迫したりしてみるんだけど、やっぱり全然構ってくれないんだよね。でも、案外この辺で言い合いしてるのがそれなりのコミュニケーションになって満足する感じかな。言い合いっていってもあっちは、へえとかそうとかうるさいとかしか言わないけど」
「・・・・・」
「・・・・・・」
「ね?参考にならないでしょ」
ああ、これは呆れられたなと思いながら、あたしはすっかり氷の溶けたグラスを脇にどかす。
「そ、それでいいの?」
「いいって訳じゃないけど、仕方ない、かな」
それがナルだもん。
「そういう人だって分かってて好きになったの、あたしだもん」
一瞬の沈黙の後、あたしの目の前の子が、はーっとため息をついた。
「何か意外。麻衣ってもっと・・・・優しい感じの恋愛をするんだと思ってた」
「優しい?」
「・・・・・思って思われてっていう。何かすごーい優しい人が恋人っていうイメージ。勝手にそう思ってただけだけど」
ああ、とあたしは笑った。
「そうだね。理想はそうかな」
「理想なら、あたしだってそんなのがいいよー。そうじゃなくて、麻衣はちゃんとそういうのを捕まえられそうっていうか」
捕まえるってとあたしが笑うと、褒めてんのと口を尖らせた。
優しい人、か。
「いいんだよ」
ずっと優しい人がいいと思ってた。いつだって優しく笑ってくれる人。たまに優しい人じゃなくて。
「だってさ、ずっと優しいって、すっごく難しいことじゃない?」
「んー、まあねえ」
「現状我儘言ったり脅したりしてるあたしはさ、優しく出来てないんだもん。そんなあたしに優しい人なんてもったいないよ」
「・・・・・・・・そんなこと、ないよ」
「優しさに甘えちゃうよ、きっと。誰かにちゃんと優しく出来るのは、凄いことなのに、気付かないで当たり前になっちゃうかもしれない」
「そんなの」
「無いって、言える?」
「・・・・・人間だからねえ」
あたしはふふふと笑った。
「優しくして貰って、優しく仕返すんじゃ意味が無いの。あたし、ちゃんと優しくしたい。その点、実のところアレは結構合格点なんだなー」
「・・・・・・麻衣の彼氏?」
「滅多にでないのが玉に瑕なんだけど。でも、優しさをはき違えたりしないから」
だから、スキなのかなあ・・・・と口の中で呟いたらさすがに照れた。思わず立ち上がって、飲み物買ってくるね!と宣言してしまう。
「何買うの?」
「え?えーともっかいオレンジジュース?」
「よし、おねーさんが奢ろう」
え?
目の前に居た子が立ち上がって、あたしの横にくると、椅子に座らせるように肩を押さえた。
「え?何?」
「まーまーいいから。あたしもオレンジジュースね。後でまとめて折半して」
「りょーかい」
隣の子も声を掛けて、あたしの手を引く。ひらひらと財布を振って行く背中を見送りながら。
あたしは慌ててそちらを見る。
「何で奢り?」
「んー。今日のところは奢られときなって。放置されてる麻衣への健闘賞ってことで」
そういう話の流れだったっけ?って思ったけど、あっという間に帰ってきた子がオレンジジュースを三人分ぽんぽんとテーブルに並べたので、有難く頂くことにする。
「じゃあ頂きます」
ふたりに向かって手を合わせたら、とびっきりの笑顔が返ってきて、奢ってご機嫌なんて変なふたりだなあとあたしも笑ってしまったのだった。
お礼が無いのにぽちぽち下さるのが嬉しかったのでこっそり。
こちらにかかり切りになっては本末転倒なので、変更したりの予定はありません。
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