拍手お礼6(料理人と船長+α) 食糧庫に保存していた肉のブロックが、一晩のうちにきれいさっぱり消え ていた。 となれば、真っ先に疑うべきはこのゴム船長だろう。 「おっ、おれは何にも知らねーぞ!最近は食糧庫にも入ってねぇし……」 こいつはまた、バレバレの嘘を。内心だけでおれは溜息をつく。 不自然なほどに激しく泳ぐ視線(もはやバタフライ級だ)と、わざとらしい デタラメな口笛(もはや軽い雑音だ)。これで本人は嘘がバレないと思って いるのだから信じられない。 念のためにと肉の周辺に仕掛けておいた罠は、作動した痕跡はあった ものの、獲物は空だった。つまり、相当なスピードで移動してそれを回避した ということになる。ウソップやチョッパーにはまず無理な芸当だ。 仕方がない、いつもの作戦で吐かせるか。 「おい、口の周りに何かついてるぞ?」 「っ!?」 おれが顔を覗きこむと、ルフィはハッとしたように両手を持ちあげた。が、 途中まで口元へと向かっていたその手は、思いとどまるかのように一瞬停 止し。今度は不自然な軌道を描いて、麦わら帽の後ろへと移動した。 「……なっ、何言ってんだよサンジ?おれは何も喰ってねぇんだから、口の 周りに何かついてるなんて、ありえねぇぞ?」 帽子の後ろで両手を組み、わざとらしく逸らした目で再びデタラメな口笛 を吹き始める横顔に、おれは少しだけ感心した。 驚いた、一応このゴム猿船長にも、学習能力というものは備わっていた らしい。 だったらこちらとしても、新しい手を使うしかないだろう。 おれはルフィを覗きこんでいた姿勢を正すと、ポケットから携帯灰皿を取 り出し、短くなっていた煙草をねじ込んだ。何気ない動作は、カマをかける 際に有効だ。 「へぇ、そうか。保存してた肉のブロックが丸々3つも消えちまったもんだか ら、てっきりてめぇの仕業かと思ったんだがなぁ……」 「えっ!?肉、まだあと1ブロックあったのか!?」 ビンゴ。 口笛という名の雑音を停止し、驚愕の表情を浮かべてくるアホゴム船長 を、おれは余裕の笑顔で見降ろした。 「あ~、間違えた。確かにお前の言う通り、肉は残りあと2ブロックだったなぁ。 ……けど、おかしいよな?何で最近食糧庫に入ってもいないてめぇが、残り の肉の数を知ってんだ、ルフィ?」 ヒクリ、と片頬を引きつらせたルフィが、「えーっと……」と再び視線を宙で バタフライさせる。 その目が、明後日の方向で停止した。 「……勘?」 「クソふざけんな、犯人!!」 船縁まで追い詰めていたクソゴムを、おれは思いっきり蹴り上げた。 綺麗な放物線を描いて飛んでいくそれを見送ることもせず、おれは船縁 に背を預け新しい煙草を取り出す。銜えて火を点けると、背後でバシャン、 と派手な水音。 それを更に無視してニコチンを思いっきり吸い込み、吐き出すと、おれは まだ長い煙草を灰皿にねじ込み、革靴とジャケットを甲板に残して海へと 飛び込んだ。 「アホだな」 ゴム猿船長を片手に船へと上がったずぶ濡れのおれに降った声。 前甲板を見上げれば、船縁に凭れて腕を組むクソ剣士と目が合った。 「……一応訊いておくが、そりゃルフィのことだよな?」 「いや?3割がルフィで、残りはお前だが」 真顔で返してくるその緑腹巻き目がけ、おれは迷わず渾身の一撃を繰り 出した。 うるせぇ、バカ。 自分がどれだけ滑稽かなんて、わざわざ言われなくてもやってるおれ自身 が嫌ってほど分かってんだよ。 ・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。* ★自分で蹴っておきながら、新しい煙草を犠牲にしてまですぐさま救出に 向かうサンジ君。そりゃあ、傍から見たらアホにも映るでしょう。(笑)でも それが、彼の日常でありスタイルなんじゃないかな、と。 まだ鍵付き冷蔵庫の無い、メリー号時代のお話でした。(ちなみにアラ バスタ編よりは後です。) 拍手、本当にありがとうございました! ※追記:「BLUE DEEP」によれば、ルフィの今夜のご飯は“悪魔風”ですね、 きっと。(笑) |
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