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季節を問わず


「……なぜ。そもそも、何が恋人達の季節、なんだ?」

 いつものようにぼそり、と呟かれたのを望美は一瞬、聞き間違えたのかと思った。
 どうやらBGM代わりにとつけっぱなしにしていたラジオを聞いていたらしい。パーソナリティーがリスナーの投書に「やはり、この時期は恋人達の季節ですからね~」と返したのを聞き留めたようだ。

「10月末のハロウィンくらいから、クリスマス、お正月、バレンタインにホワイトデイ……って、やたらイベント続きだし。……人肌も、恋しくなるからじゃない?」

 言いながら、望美は居心地が悪そうに知盛の腕の中で身動いだ。
 ろくな暖房器具も無かった世界での冬を耐え抜いたはずなのに、自分の世界へ戻った望美の身体は、あっという間に文明の利器による享受を思い出し、満喫するようになった。
 しかし、知盛は違う。
 あの世界で自堕落に見えていた生活態度は変わらないようでいて、決して便利なもの全てに頼ろうとはしなかった。
 かつて、知盛が何よりも欲していた命を賭するような遣り取りなど、この世界では望むべくも無い。本人も代わりになるものを求めて、独自に動いてはいるようだが、やはり真っ先に代替を求めるのは望美に対してだった。

「俺に、お前を選ばせた責任は取ってもらう……そう言っておいたはずだ」

 そして汗ばむ暑さにも、凍える寒さにも耐えて、なるべく知盛の傍に居るはめになっていた。
 そう、冷暖房完備の小綺麗な集合住宅に居を定めていながら、知盛がその利器を使うことは滅多になかった。

「暑くないの?」

 と聞けば「冷えると動きが鈍る……」と返され。

「寒くないの?」

 と問えば「お前がいれば十分、だろう?」と抱き込まれる。
 この部屋で冷暖房の恩寵に与れたのは、暑気あたりで倒れた時と、風邪のひきはじめに震えていた時だけだった。

「温もりを求めるのが自然……ということか」

 望美の頭の上にいる知盛の喉が笑い声に鳴ると、ウエストに回されていた腕の拘束が一段と強まる。

「……ちょっ、と、知盛!そんなにしたら苦しいじゃない!」

「季節に相応しい抱擁、とやらをしてやろうと思っただけだが?」

「……苦しい、だけなんですけど」

 無理に後ろを睨みつけようとした視線は、皮肉げな笑いに一蹴される。

「文句が多い、な」

 「あっ」という間も無いくらいの早業で体勢を入れ替えられてしまえば、いつも通りの寒さを感じるどころか汗ばむほど熱くなる時間が訪れる。
 時に優劣さえも入れ替えて過ごすその時間は、正に季節になど左右されない恋人達の時間というのに相応しいのかもしれなかった。



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