Supernova:軽音楽部 -1-


「暑い、ていうか暑い、マジ暑い、ちょー暑い……」
「だぁから、あんま言うなっつの、よけい暑くなる……」
「ちょっと、せめて元気良くつっこんでよぉ尚っぺ……
 うー、じゃないとこっちまで、元気、が……がくっ」
「智、しっかりしろー、傷は致命傷だぁ……」

 平素のことを考えると部活としてはこっちの方が都合がいいのかも知れないが、
 騒いでいないならいないで練習のやる気をまったくなくしてしまうのがまたうちでもあるので、
 結局のところどっちもどっちってことになるんだろう。
 賑やかなら賑やかで話が進まないと言えばそうなのだが、その日はとにかく夏本番の気温と
 直射日光が軽音部室と私たちを直撃していて、有り体に言えばだれていた。
 軽音楽部全員、いつも元気な美穂と智、そして元気にならざるを得ない尚も、もうだらだらだった。
 
 相変わらずちいとも意味を感じられない冷房が鈍い音を立てて回り、いったい誰が持ってきたのだか
 知れない扇風機ががたがたと壊れかけなのをおして軋む首を回してはいたが、ほとんど気休めでしかない。
 カーテン越しにでも太陽光に曝せばあっという間にボディがあったまってしまうのは目に見えていたので、
 壁際ぎりぎりまで寄ってからエレキギターの整備をしていた私は、これは今日も練習は進まないな、
 なんてほとんど確信に近いようなことを、なんとなく考えていた。とにかくここのところの暑さは殺人的なのだ。
 地球温暖化の危機をこんなときだけひしひしと感じながら、ギターの上に落ちた汗をあわてて拭う。
 
 もっともこの暑さのせいで軽音部持ちのアンプはすっかり調子が悪くなってしまっていて、
 今までどうにかこうにか働いてくれていたマーシャルも機嫌を損ねていっこうにつながらないので、
 そうでなくとも今日はやっぱり、どうしようもないのだけれど。

「あーっ、やだやだ、うだる! この状況には部長として危機感をおぼえますっ!」
「全校生徒のうち何人が覚えてんだろうな、軽音部長が美穂だってこと」
「部員の私もちょっと忘れてたから、どうかなぁ……」
「唯香マジ容赦ねえ!! いや、だからね、たまには思い出させてあげようというわけでね?」

 言う割にちっともこたえていないらしい美穂は、ベースをぶら下げたままホワイトボードに向かい、
 主に智と美穂の落書きだらけなそれをひっくり返すと、おもむろにペンを取りだした。
 これもまた古い備品なのでだいぶかすれたインクが、そのくせでかでかと元気な字を躍らせる。

「というわけで! 夏合宿を、します!!」

 その言葉に、尚の悲鳴と智の歓声が、暑さの充満する軽音部室にこだました。


<続>



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