「華菜、ちゃん?」
ツナの戸惑ったような声が耳に届いたとき、彼女は疲れたような笑みを浮かべて振り向いた。
呆然としながら躊躇い気味にツナは歩み寄ってきた。
だが近寄るほどに、彼の動きはぎこちないものになってくる。
「そ、その格好」
まじまじと頭の天辺から爪先まで見たツナは、真っ赤になって顔を背けた。
「どうしたの?」
さらさらストレートな美髪がなびく度、男子が振り返り、スカートが翻る度、女子が驚きに顔を歪める。
誰も声をかけないのは二の腕に燦然と輝く腕章を見たからか。
学校指定のズボンにシャツ、上から学ランを羽織っているのが普段のスタイルのはずだ。
だが今の華菜はそれから明らかに逸脱した格好をしていた。
胸を大きく協調したベストが印象的な黒いワンピースで、ピンタックを施した袖はふんわりとして可憐な印象を与える。
さらにレースをふんだんにあしらった襟とエプロンが清楚な雰囲気を醸し出す。
アクセントは大きめの胸のリボンと、背中のシャーリングだ。
服と似たようなヘッドドレスが髪によく映えている。
そんなゴスロリ美少女の連れが何をやらせてもダメで有名なツナというのだから周りの驚きもひとしおだ。
視線の集中豪雨の中で、ツナは獣さながらに周囲を牽制しながら華菜に聞いた。
「そのまま学校行く気?
オレとサボってどこか行くっていい選択肢はない?」
「ツナが望むなら、と言いたいところだが、この世の神レベルの御方からの命令だから駄目なんだよ」
「神!?」
「その人に逆らったら、多分私は消されるな」
サラッと言ってのけた麗だが、ツナはドン引きだ。
逆らえば死をというような人が、なぜこんな変態めいたことを。
「(いや、むしろグッジョブ神!)」
ツナは心密かに親指をおっ立てた。
「げ」
露骨に嫌そうな声を上げた麗は、唐突に足を止めた。
その視線の先にはフランスパンによる検閲があった。フランスパンの品質を調べるのではなく、生徒の服装を調べるのだ。
その中でも一際長いリーゼントを掲げているのは鬼の委員長と正反対の仏の副委員長・草壁哲也(彼女なし)。
雲雀のように暴力で訴えることはまずないが、雲雀を常日頃から崇め奉っているのでその分面倒だ。
以前神棚の中に彼の写真があったときには、マジで引いた。
草壁には友達がいないんじゃないかと本気で心配になった。
「どうかした?」
無言のままに校門を指差すと、納得がいったようにツナは頷いた。
「その格好だと絶対取り締まられるよね」
「いや、何より私に女装趣味があると思われるのが嫌だ」
「あー・・・」
「せめて風紀委員だけでもいなくなればいいんだけどなぁ・・・」
前述している通り華菜は学校では名前・白銀麗、性別・男で通っている。
そりゃ女だと知ってるやつもいるが、それはボンゴレファミリーだけだし、風紀委員で知るのは雲雀だけだ。
転入して一年も経ってないのにこんな趣味があると思われたら、残りの一年はどう過ごせばいいんだ。
そのうえ委員に知れたりしたら、どんな扱いになるか分かったもんじゃない。
ただでさえ花に困窮してるんだから、もしかしかた今度から女子の制服で来てくれと頼まれるかもしれない。
おsれはそれで正常に戻るだけだからいいが、そしてらさらにクラスで誤解が生まれるに違いない。
どうしたもんかと頭を悩ませていると、ツナが一歩前に出た。
キュッと音を立てて手に填めたのは、27と編み込まれた手袋だ。
「ようは邪魔者を排除すればいいんだよね」