拍手お礼SS

(ライ×バーボン)


 視線を感じるなんてことは日常茶飯事で。その視線に下心なんて可愛いものではない欲の類が含まれるのだって、もう慣れたものだ。
 首を絞めつけるネクタイを緩めながらパーティ会場を後にし、窮屈な視線から解放されたかと思っていたが、間違いだったようだ。後をつけてくる気配に辟易してしまう。こんな面倒なことになるとは。
 利用するだけ利用して、はい終わり。上手くいく手筈だったが、どうやら執念深いハズレを引いたようだ。多少は利用価値があるかと思ったが、必要以上に面倒なことになった。まさか、ここまでハマられるとは。もっとも、おかげで今回のターゲットには接触することができたのだから不必要なコブに目を伏せることにしよう。気にてしまえば負けだ。そう。負けなはずなのだが。
 そっと息を吐き出したところで、車にもたれかかっている男に目が留まった。相も変わらず、うっとおしい長髪が風に揺られ、紫煙が綺麗に空へと立ち上っていた。一流ホテルを出てすぐの大通り。交通量も多い所に堂々と止めているあたり、やることが大胆だ。まぁ、それも今日はちょうどいい。どうやら今日はあの男がタクシーなのだから。
 周囲の視線をもろともせずにいる男に大股で近づくと、三メートほど手前で男の視線が動く。いや、この様子ならばバーボンが通りに出たあたりから気づいていたか。どちらにしろちょうどいい。
「ねぇ、あれ面倒なんで追い払ってくださいよ」
「あ?」
 心底迷惑だと、視線だけで後ろをつけてくるハズレの男の存在を示唆すれば、眉を寄せた男が次には面白そうに口角を上げた。
 なるほど、そういうことか。
 表情だけで明確に告げてくる男がどんな対応をするつもりなのか定かではないが、これであのハズレの男ともおさらばできるだろう。腕の一本くらいで済めばいいが、さすがに利用した手前、救急車は呼んでおいてやろうかと思っていると、予想に反して顎を掴まれ。
「バーボン」
 降ってきたのは吐息を含んだ声音と、温かな温もりで。重なった影にバーボン自身も目をわずかに丸くしたが、すぐさま男の首へと腕を回した。



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