君が生きる理由 Chapter4.5

「はぁ……いつまでもこのままって訳にはいかないよね」
昨日のことを思い出すと、思わずため息がこぼれた。
仲のいい友達だと思っていた榛原君からの突然の告白。
優しさに満ちたその声に、不安や寂しさが溢れてしまって。
私は榛原君の胸で泣いていた。抱きしめられていた。
一瞬、この優しさに頼って良いのかなと思った。
けれどそんなの許されるわけはない。
だって、ほんの少し前まで変わることなんてないと思っていた私達の関係。
それが変わってしまった切っ掛けを、原因を作ったのは私。
理由はあったけれど、それは私の勝手な理由で……一方的に私達の関係を壊した。
そんな私がこんな優しさを向けてもらって良いのかな?

迷っていた私に榛原君はたった一言「返事、ゆっくり考えて」って言い残して帰っていった。
「ちゃんとお返事、しないと……だよね」
正面から真っ直ぐに気持ちを伝えられたのだから、私もちゃんと答えないといけない。
けれど私はなんて答えるんだろう?
榛原君のことは好きだけど、その好きはどの好きなのかよく分からない。
クラスメイトとして?
友達として?
それとも異性として……好きなのかな?
それにもう一つ気になっていることがある。
その気になっていることがあるから、余計に私は返事をするべきなのか迷っている。
「私に残された時間は後どれぐらいしかないんだろう……」

******

一週間が過ぎたある日、私は榛原君に病室に来てくれるようメールを送った。
大切な話があるからって送ったメールは、一分もしないうちに返事が返ってきた。
少しドキドキしながらメールを確認する。
そこには「すぐに行くから」とだけ書かれていて、私はそれを見て大きく深呼吸をした。
もう逃げられない。そう思うと胸のドキドキがまた少し強くなって少し痛かった。
それから二十分と少し時間が過ぎて、扉をノックする音が病室に響いた。
それが誰かなんて聞かなくても分かる。

とうとうこの時がきちゃった。
必死に落ち着くように自分に言い聞かせて、出来る限り冷静に私は返事をして、榛原君が病室へと入ってきた。
本当は扉のところまでちゃんと行ければいいのだけれど、膝が震えてうまく歩ける自信が無かった。
だから私はベットの上で上半身を起こしたままだ。
「大切な話ってなにかな?」
「ちゃんと……あの時の返事をしなきゃいけないと思って」
簡単な挨拶を交わした後、すぐに榛原君が話を本題に移した。
だから私もきちんと答える。
だって、これが一週間かけて考えた私の気持ちだから。

「私……やっぱり榛原君とは付き合えないよ」
私の言葉が掻き消えると同時に訪れた静寂。
けれどそれは榛原君のため息が一瞬で破った。
やっぱり……と、どこか納得しているような彼の表情に私は何も言えなかった。
「……どうしてなのか理由だけ聞いてもいいかな?」
「……うん」

それから私はゆっくりと話し始めた。
今まで内緒にしていた、本当のことを。
私が入院しているのは、本当は今までのような単純な体調不良じゃなくて。
いつ発作が起きるか分からなくて、その度に死んじゃうかもしれない危険がある。
そして、その原因も治す方法も、今のところ何も分かっていないってことを。
今まで生人以外、クラスの誰も知らない病気のことを全て榛原君に伝えた。
榛原君はその間、何も言わずに黙って聞いていてくれた。
それでも突然のことで動揺しているってことは目を見れば分かった。

「――だから、私は榛原君とは付き合えないよ……」
「伊勢さんがそんな状態だったなんて全然知らなかった……」
「それは……隠していてごめんなさい。榛原君にはもっと早く伝えるべきだったと思う」
「それは別にかまわないけど、どうしてその病気が付き合えない理由になるの?」
「だって、私いつ死ぬのか分からないんだよ!」
今日の夜にでも発作が起きて、そのまま死んでしまう可能性はゼロじゃない。
もしそうなったらと思うと、誰かと付き合うなんて出来るわけ無い。
それが榛原君ならなおさらだ。
「けれど、生きていられる可能性だってあるんでしょ」
「そんなの分からないよ……」
「じゃあ聞くけど、それがはっきりと分かるまでずっと一人で居るつもりなの?」
「それは……」
「いつ発作が起きるのか分からないなら、俺はなおさら傍に居てあげたい」
「……」
「同情とかじゃない。俺は伊勢さんが好きだから」
飾りの無い榛原君の気持ちが一言、一言胸に突き刺さる。
「でも、もし本当に私が死んだら――」
「俺の知らないところで伊勢さんが倒れたら俺はもっと辛いから」
「あっ……」
「お願いだからそんな寂しいことを言わないでよ」

どんどんと逃げ道を塞がれていく。
それが無意識に分かったから、私は急いで別の道を探す。
「俺は伊勢未来さんが好きです。たとえ病気のことを知った今でもその気持ちに変わりは無い」
けれどそんな私の気持ちを知らずに榛原くんが言葉を紡いでいく。
「だから俺と付き合って下さい」
そう言って榛原君は優しく微笑んでいた。
私はそんな優しさに無理に逆らうことを止めて、榛原君と付き合うことにした。

また少し、私達の関係が変化した。
友達から恋人へと。

******

まずはここまで読んで頂きましてありがとうございますm__m
当初この二人は付き合うはずじゃなかったのですが、いろいろあってこういう形で落ち着くことになりましたね。
どんどん私の想像の枠を超えていってしまう彼ら。この後どうなることやら(オイ

今回はこの辺でサヨナラですが、今後も本編の方もあわせてよろしくお願いいたします>w<v

2007/03/03



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