拍手ありがとうございます。感想などいただけると嬉しいです!ただ今おまけSSは1つです。 少しビターのチョコレートがミルクパンの中ですっかり溶け込んで牛乳と混ざり合っているのを確認してから薬指のほどの大きさのバターをひとかけら。リビングのソファで待つ女の子のそわそわした空気を感じとって僕は声を立てずにくすりと微笑う。お行儀の良い彼女にしてはめずらしい様子が可愛くてくすぐったくて。 「お待たせ」 言えば、彼女はそっとさりげない笑みを浮かべる。待ってないよ、と語るその表情は僕のお気に入りの一つ。 「マシュマロ…」 「砂糖がわりにね、たまにはいいかなって」 「うん。いいわね」 ココアの上にぷかりと浮かぶ苺よりはちょっと小さくブルーベリーよりは大きい真っ白のマシュマロはじゅわじゃわとその中へ少しずつ溶けてゆく。ちらりと窺った彼女の頬はココアの湯気にあたってなのかほんのりと染まっている。 「…サナエちゃん」 こちらへ送られる視線を感じながら溶けて広がってゆくマシュマロをじっと眺めたまま僕は鼓動の音に静かに聴く。不思議そうに小首を傾げているのがわかる。白いそれはもう半分の程の大きさになった。飲むにはまだ少し、苦くて熱いと舌が感じる味と温度。 …決めたことがあるんだ。ついさっき、二人分のココアを作っている最中に。回り道ばかりしていた臆病な自分とさよならするタイミングを。 「好きなんだ」 決めたんだよ。このマシュマロが溶けきってしまう前に君に告げる、と。 甘い匂いと暖かな湯気が流れていた緩んだ空気とは裏腹に鼓動の音は速く響いていて本当にあっという間の出来事だったのだとわかる。三分の一ぐらいにとろけたそれは数秒後には白い靄に。 「レオくん」 大きく息を吐いてようやく顔を上げられたのは彼女からの呼び掛けで。鼓動は先程とは比ではないぐらいに大きくうねり跳ねた。声にじゃない…ほんのり温かい指の柔らかさに。重なった手と手は僅かな力を込めて絡み合う。彼女の優しく綻ぶ唇から告げられる言葉に夢中で耳を傾ける隣りで、白いマシュマロが溶けて沈んだココアはいつの間にかすっかり冷めてしまっていて、再びキッチンへ戻っていったのは言うまでもない。 「バターをひとかけら」 「それが隠し味?」 「うん。それから最後に…」 隣りに並んではにかむ女の子に小さく微笑い返し僕は鼓動の軽快なリズムを感じながら彼女のカップにマシュマロを一つぽとんと落とした。 |
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