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戸惑いと、温くなった缶コーヒー~君を見つける10のお題~
[DMC3/バジダン/ED後捏造]
「オイ」
聞きなれた声が聞こえた方を見ると、目の前に缶コーヒーが浮かんでいた。
顔に当たりかけたところを慌てて取り、それを投げたと思われる人物へ目を向ける。
「いきなり何すんだよ、バージル」
「マヌケ面で呆けているからだ。」
受け取りそこねて缶コーヒーが顔へ当たればよかったのに、と思っていることがありありと見て取れる。
口の端を引くつかせてみれば、気持ち悪いものを見るような目で見下された。
収まらない気持ちはあるものの、とりあえず貰った缶コーヒーのタブに指をかけた。
「……って、これ暖かいヤツじゃねーか。今は真夏だってのに!」
「間違えて押してしまった。」
「それを俺に押し付けんな!ってことはそっちは冷たいんだな。変えろよ。」
ずい、と缶コーヒーを冷徹な兄の前へと突き出すと、バージルはそれを一瞥して何事も無かったかのように自分のコーヒーを開けた。
あ、とダンテが呟くのと同時に、ごっごっごっと一気に缶コーヒーを飲み下す。
「……アンタって、本当いい性格してるよな」
「まあな」
じりじりと照りつける太陽の下、何の因果があって熱い缶コーヒーを飲まなくてはいけないのか。
これはもしかして喧嘩を売られてるんじゃないだろうかと思い始め、いつ相手が剣を抜いてもいいようにさり気なく自分の武器を確認した。
「ダンテ」
缶コーヒーのタブへもう一度指をかけた瞬間名前を呼ばれる。
珍しいこともあったもんだ、と思いながら顔を上げると、そこには背を向けた兄が居た
「帰るぞ」
「何だよ、もう行くのか?まだ飲んでねーよ。」
「…まだ気付かないのか、馬鹿め」
唐突に馬鹿呼ばわりされた事に腹を立てたが、ふと自分が指をかけたタブへと目を落とす。
そういえば、何故バージルは缶コーヒーなんかを俺に寄越したんだろうか。
元々外で自動販売機などを使うはずが無いのがバージルで、何より奢りということが珍しい。むしろ奇跡に近い。
何か理由がなければ、バージルの性格上しないはずだ、と思うと共に、数分前の自分を思いだした。
暑くて暑くてしょうがなくて、数歩歩くたびに休憩しよう喉が渇いたとブツブツ言ってはバージルのことを罵った。
急にバージルが立ち止まって自動販売機へ向き会ったものだからそのまま休憩できると思っていたわけだが。
「…俺のわがまま聞いてやった、ってことか」
「もう無いと思え」
ということは、この暖かい缶コーヒーは戒めの意味が込められているのだろうか?
それよりも、もしかしたら俺が五月蝿いのを黙らせるという理由の他に、バカだの堅物だの言われるのが嫌だったんだろうか、という事の方が気になってしまってしょうがない。
どうにも素直ではない兄を見て、ダンテは温くなった缶コーヒーを飲み干した。
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