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ただ、君と居たいと~君を見つける10のお題~
[VOCALOID/連載マスレン]



隣でぐっすりと眠っているマスターを見ながら、レンは眠れずに寝返りを打った。
この人に買われてから、どれほどの月日が立ったんだろう。


(結構、時間はたってるよな)


計画性もなしに自分を買ったこのマスターは、何かと自分のことを人間扱いしてくれる。
ご飯も食べるように言うし、風呂にも入れなんて言うし、寝るところだってベッドが一つしかないからとそのスペースを分けてくれている。
与えられる無条件の優しさが怖くて、眠って目が覚めたら全て夢だったんじゃないか、なんて思ってしまう。


(俺はボーカロイドなのに…夢なんか見ないのに)


正しくは、人間が見るような夢は見ない。
わけのわからない意味不明なことがごちゃ混ぜになった夢じゃなく、ボーカロイドが見るのは自分の記憶と寝る前の感情を元に構成された、願望を素直に表すものだ。
だからこそ、レンは今この状態が夢なんじゃないか、と、怯えてならなかった。


「…マス………」


マスター、と、素直に呼ぶことが出来ない。
レンはいつも、マスターのことを呼ぶ時はアンタだのなんだのと、決してマスターと言おうとはしなかった。
それはレンの意地もあるが、それ以上にマスターとボーカロイドだなんて主従関係になりたくなかった。


対等に扱ってくれるこの人と、対等でありたいと願ってしまう。


それはボーカロイドにあるまじきことで、これが研究者側に知られれば、おそらく自分は廃棄になるだろう。


ボーカロイドはマスターに従順でなければならないから。


「…………マスター。」


小さく、呟く。
本当はマスターと呼びたい。
マスターは、マスターと呼ばれると嬉しそうに笑ってくれる。
自分が呼ばれたのだと思うと嬉しくなるんだと、前に言ってくれた。

それでも、マスターの意識がある時に言うのは抵抗があった。


マスターのことを認めていないわけじゃなく、ただ素直になれない意地があるから-------




「レン?どした?眠れない?」
「ッ……!」


ふわりと頭を撫でる体温が心地よくて、思わず目を蕩けさせるところだった。
暖かい声色に耳がぴくりと反応し、レンは僅かに頬を紅潮させる。
暗闇でよかったとつくづく思いながら、マスターを起こしてしまったことに僅かな罪悪感を抱いた。


「それとも、怖い夢見て起きちゃったとか?」
「別に……」
「ホラ、もっとこっちおいで。」


ぶっきらぼうな返事をしたレンに構わずに、マスターはレンを引き寄せてすっぽりと腕に収めた。
マスターの腕を枕にして、鼓動が聞こえるほど近くまで引き寄せられ、レンはどくどくというマスターの鼓動の音が自分のものではないかと錯覚した。


「人って、心音が聞こえてると眠くなるんだって。」
「…俺はボーカロイドなんだけど」
「うん。でも、多分原理は一緒じゃないかと思うんだ。音でリズムなわけだろ?」


傍に居てやるから安心しろ、と言われているようで、レンは嬉しくて思わずマスターの服をぎゅっと握り締めた。
そんなレンの心情には気付かず、寝ぼけ半分にレンの背中をなでると、マスターは目を瞑って寝息を立て始める。


(知らない、くせに)


マスターは、知らない。
自分が一体どんな思いで、マスターを見て居るのか。


自分のことを弟のように扱うマスターには、わかるはずがない。


(俺がどんなに幸せで、どんなに嬉しくて、毎日をすごしてるのかなんて)


優しい声が聞こえる。
暖かい温もりを感じる。
笑顔がすぐ近くにある。


あなたが、いる


(それが、俺にとってどんなに嬉しいことか、アンタは知らないんだ)


(すき)


(マスターが、すき)


(…気付いて)




たとえ気付いてくれなくても、
ずっと傍に居られるなら、それで










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