その愚かな人間は、ロザリオを握りしめて唇を震わせた。
雫が目じりから零れおちる。それは恐怖の涙だろうか、それとも後悔の涙だろうか。いずれにせよ、もはや手遅れだ。彼に為す術はない。
「主よ…」
震える唇が紡ぎだした言葉に、口角を持ち上げた。
そんなに怯えるなよ、楽しくなってくるだろう?
一歩近付けば、彼はロザリオを握った手に力を入れて、胸の前で十字を切った。小声でぶつぶつ何かを呟いている、祈りの言葉、とやらだろう。
ロザリオを握りしめる腕を掴むと、男は腰が抜けたのか、その場に座り込む。それでも懸命に、悲鳴を飲み込んだのが分かった。
だから、そんなに怯えるなよ。ほら、特別に美しい顔で微笑んでやろう。
途端、男の体から力が抜ける。手から滑り落ちたロザリオが、彼の胸元で揺れた。手を伸ばしてロザリオを掴み、鎖を引きちぎる。男の口から、今度こそ悲鳴が零れた。
「契約はすでに交わされた。望みを言え」
耳元で囁いてやる。顔を離してみた男の顔は、絶望に塗りつぶされていた。
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