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◆淵ちょこ

 艶やかな長い髪はひとつに束ねられ、束ねられた先はもはや別の生きもののようだ。宙を舞う黒鞭は張コウなど知らないとばかりに体を離れ、離れきってしまえば再び張コウの背に戻ってくる。唯一無二の相棒のように見える。戦場という場であっても張コウの姿に気品が漂ってみえるのはそのような点で優れているからだろう。

 無遠慮な手がその髪を乱暴に掴むのを夏侯淵は見逃さなかった。
 張コウは後ろに引き倒されそうになったが片足でふんばり上半身にひねりを入れた。咄嗟に背中をかばったのが功を奏し、相手は張コウの束ねた髪に刀をいれるかたちとなった。

「てめぇッ」

 周囲の喧騒が、一瞬止まるほどの怒声だった。夏侯淵が鉄鞭で相手を攻撃するよりも一瞬早く、自らの恨みをはらすかのように張コウの鉤爪が相手をしとめたが、それでも夏侯淵は気が収まらず無意識に相手に矢を打ち込んでいた。

「淵。やり過ぎだ」
「あ、あぁ。そうだよな」

 いつの間にか敵将はどこの部隊かもわからなくなるほど損傷していた。
 夏侯淵は夏候惇に言われてようやく自分が我を忘れていたことに気がつき手をとめた。

「将軍。有難うございます」
「いや……」
「私を気遣ってくれたのでしょう」
「いや、なんかよ。お前の髪切られるの見たらスッゲェ頭にきちまって……なんでだろうな」

 おどけたように言い頬を掻く夏侯淵と、なんとも複雑そうな表情で固まっている張コウ。

――つまりわたくしが、将軍を激昂させてしまったのですね! 嗚呼……うつくしさとは、罪ッ!!

 口には出さなかったが魏軍の兵士には張コウの思考が手に取るようにわかっていた。見かねた夏候惇が咳払いをしたので、ふたりはまたお互いの部隊を率いて別れた。

END
(一辺の曇りもないギャグ)



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