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◆諸葛亮+月英+姜維

「姜維殿」

 凛とした声に呼ばれたまま振り向いた瞬間顔と肩に髪の毛が落ちてきて姜維は驚いた。
 ほどけていますよ。
 月英が今しがた地面に落ちた髪紐を拾い上げる。姜維は慌てて髪の毛を繕おうとするが、髪紐は器用にも元の長さの半分ほどの場所で切れてしまっているため、このまま結おうにも長さが足りそうにない。
 月英は優しくほほえんで見せた。

「わたしの髪紐をお貸ししましょう。ついてきてください」
「あ、あの。月英様」

 有無を言わさない月英の言動に、姜維はしぶしぶながらついていく他なかった。

 諸葛亮が姿の見えない妻と弟子がふたりして陣幕にこもっているという話を部下から聞き、たずねるとそこには確かにふたりの姿がある。
 姜維は諸葛亮の姿を見ると慌てて椅子から立とうとしたが後ろにいる月英がそれを許さない。

「おやおや。月英、姜維。見えないと思ったら」
「じょ、丞相」
「孔明さまもう少しお待ちください。すぐに出来上がります」

 櫛と香油と、色とりどりの紐。
 それで今から姜維の髪をとめようというのだろう。
 諸葛亮が持っている羽扇をあおぐと、自分が使っている香油と同じ香りが鼻孔をくすぐった。

「丞相。丞相から奥方様に言ってください」
「月英。こんな時に人形遊びですか」
「"こんな時"だからこそ、こういったことが必要なのです。発明とは自由な発想から生まれるもの。男子が戦場で美しいものを纏ってはならぬ理由がありますか」
「姜維」
「は、はい」

 何を言われるのかびくびくしている姜維は背筋を伸ばし膝のうえで拳をかたく握った。

「あきらめなさい」
「そ、そんな! 丞相わたしを見捨てるのですか!?」
「次の洗沐までの辛抱ですよ」
「丞相。待ってください」
「姜維殿動いてはいけませんよ」

 大人しくしていて下さい。
 そうは言われても月英の手が自分の髪に触れるとき、頭を撫でつける手がたまに耳や首筋にあたるのだ。
 これをどうにかしてくれなければ困ると姜維はすがるように諸葛亮をみたが、これも修行のひとつと想え――そう云うふうに諸葛亮は頷いてみせると羽扇をあおぎながら陣幕を後にしていってしまった。

END
(疑似親子万歳)



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