ゴトン、とフィンランドが机に突っ伏し、エストニアはなれた様子でコーヒーで口を湿らせてから言葉を舌に乗せた。 

「今度はなにがあったのさ」

「……君のその冷静なところは、本当に見習いたいと思うよ」

「ありがとう。で?」

 フィンランドがエストニアの家を訪れて、疲れきったように突っ伏すのは今に始まったことではない。

 彼がスウェーデンの属国となってからは、よくある光景だ。

 確か二週間前もこんなコトがあったばかりだったはず。

「スーさんがね……」

「うん」

「あれから、サウナに一緒に入ってくれなくなっちゃって……」

「…………それは……、別にいいんじゃないの」

 君の貞操とか心配だし、とはあえて口には出さない。

 スウェーデンのことだから、きっと初めて一緒に入ったときに、なにか限界のようなものを感じ取ったのかもしれない。

 フィンランドは気がついていないけれど、好意をよせている相手と裸で密室に二人きり、なんて、危険すぎる。

 自分から狼の元へ全力で駆け寄っているようなものだ。

 やっぱり言わないけれど。

「普段、怖い怖いって言ってて、プライベートな空間をほしがってたじゃない。ちょうどいいでしょ?
 せっかくだから、楽しんでみたら?」

 なるべく柔らかく、かつフィンランドにそう納得させようとそう言えば、なぜだか不満そうに口を尖らせて。

「そうなんだけど……」

「なにが不満なのさ」

「んー……。スーさんが作ってくれたサウナだし、せっかくなら一緒に楽しんでほしいなぁって。僕ばっかり楽しむのは、申し訳ないし」

「……あー……」

 思わず頭を抱える。

 どこからどうつっこんだらいいのか、わからない。

 もういっそのこと、くっついてくれたら話は早いのに、とも思うけれど。

 けどそうなったらそうなったで、違う愚痴をきかされそうだ。

 それはそれで、ダメージがでかい気がする。

「スーさんサウナ苦手なのかなぁ。けどそうは見えなかったけど。前はよく一緒に入ってたんだけど……」

「……そうだねぇ」

 一緒になって悩むふりをしつつ。さてどうしたものかと思案する。

「もしかして、湖に飛び込んだときに、すごくびっくりしてたから……それがイヤだったのかな」

「あー、そうかもねー……」

 それもあるかもしれない。

「けどアレが気持ちいいんだよー。サウナのあとは湖に飛び込むか、雪の上に転がって。そのあとまたサウナに戻る。これがいいのにな」

「君、もしかしてスウェーデンさんにもそれをやれって言ったの?」

「うん。あと白樺でびしびしと」

「…………そう」

 普段怖がっているくせに、どうしてこういうところは強気なんだろう。

 というか、好意をもっている相手にそーいうコトをされたら、気持ちを悟られて、さりげなく拒否られているのでは、と危惧してしまうんじゃないだろうか。

 まぁフィンランドの場合は、本当によかれと思ってその行為に及んでいるのだけれど。

 ――不憫なスウェーデンさん。

「もしかしたら」

「うん」

「スウェーデンさんは、自分のペースで楽しみたいんじゃないかな。
 その……、ビシビシしたり、湖に飛び込んでみたり、そういうのはやらない方向で、サウナを楽しみたい、の、かもしれない」

 とりあえず、スウェーデンサウナ嫌い疑惑は解いておこう。

 そう決めて口にすれば、フィンランドもはっとしたように目を見開いた。

「そ……、そっか……。そうだよね。僕ってばサウナでテンションあがっちゃって、つい……、スーさんに雪をかけまくってみたり、湖で反対の岸まで競争とかに誘ってみたりとかしてたけど、人には人のペースがあるよね」

「君、そんなコトしてたの」

 無意識なのか、普段のストレスの腹いせなのか、それとも別のなにかなのか。

 よくわからないが。

 フィンランド……恐ろしい子……。

 そう心の中で呟いて。

「じゃあ、今度は一人でゆっくりと入らせてあげて、サウナの楽しみを自分で見いだせるようにしてみたらどうかな」

「うん、そうする。相談にのってくれてありがとう」

 にこやかな笑みで礼を言われるのも、いつものこと。

 相談の結果は……一週間以内にはわかるだろう。

 その時フインランドがどうなっているのか、それはまだわからない。

 わからないけれど、予想と対策はしておかないといけない。

 美味しいコーヒーでも用意して待っておこう。と決めて、笑顔で帰路につく幼なじみを見送った。






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