碧棺左馬刻が舞台に出る。
当然チケットは戦争だったし、千穐楽も初日も「チケットマジで売ってる?」っていうくらい当たらなかった。しかしどうにかこうにか一枚手に入れて、私は本日現場入ります!
ロビー開場は開演の一時間前。見に行くだけならギリギリに開場入りしてもいいんだろうけど、その前にやることはごまんとある。DVDの予約、物販、フラスタの確認。まだ人の少ない時間帯にやるのが吉だ。
しかし、なんということでしょう。余裕を持って会場入りしたかったのに、電車が遅れやがった!
結局私が現場に着いたのは開場五分前で、既にロビーにはそれなりに人がいた。ざっとロビーの中を見て回ってフラスタをチェック。
あったあった私の贈ったフラスタ。サマトキ様へ、あなたのアリサより。十五万かかっただけあって一番目立っている。

「それ、すげぇっすよね」

満足して写メを撮っていると、背後から低い声がかけられた。
思わず振り返ると、そこにはあの山田一郎が立っていた。彼は左馬刻と仲がいいから見に来ててもおかしくないけど、ロビーでうろうろしている関係者って珍しいな。

「ところでお姉さん、俺のやつ見ませんでした?今ざっと見たんですけど、どこにもなくて……」

しゅんと一郎の眉毛が下がる。お前もフラスタ贈ったのかよ、関係者のフラスタって分かりやすく置かれてるものじゃないのか。

「見てない……ごめんね」

そう答えると、一郎はやっぱりしゅんとして「そっすか」と呟いた。なんだか小動物みたいでちょっと可愛い。こういうところを左馬刻も気に入ってるんだろう。
しゅんとした一郎は「左馬刻さん楽しみですね」と言い残し、そのままふらふらと物販列に並ぶ。
だから物販列に並ぶ関係者とか見たことないんだけど。
何枚か写メに納めて満足し、私も物販列に並ぶ。目の前には山田一郎。彼は真剣な顔で貼られたグッズのラインナップを確認していた。
じりじりと列は進むが、彼は誰かと待ち合わせている素振りがない。
あっという間に一郎の番になり、彼はすっと財布を取り出した。

「左馬刻さんのL版とB5版のブロマイド三つずつと、あとパンフお願いします」

なぜ同じものを三セットも買うのか教えてくれ山田一郎。いや、気持ちは分かる。私だって五セット買うつもりだ。しかし、私はただのファンだ。左馬刻の視界に入ることもできない。しかしお前は左馬刻の隣にいられるだろ。ツイッターでもインスタでも匂わせ下手くそかよってくらい左馬刻の話してるだろ。それでどうしてファンと同じ行動を取るんだよ。
意味が分からないよ山田一郎。
しかし三セットずつ買った一郎はほくほくとグッズを抱えていて、少しだけ彼も推せるかもしれないと私は思った。