(5/5)聖×黒:シンプルに人を愛する方法。



普通に大聖堂の廊下を歩いていたら、突然腕を捕まれた。

特にやべえ気配もしねえから、そのまま薄暗い空き部屋まで引きずられてやる。

ご丁寧に鍵までかけられたが、こんなシチュエーション久しぶりだな。相手が男ってのがイレギュラーだが。



「レモンって、彼氏いるんだったよね?」



しかも、意を決したような面して開口一番がコレだ。

すげー恐る恐る聞かれてんだけど、別にキレるような話題じゃねえじゃん。例えキレたとしても取って食やしねえし。おまえの中で普段の俺はどんなキャラしてんだよ、失礼な。



「は? ……あぁ、“彼氏”ねぇ。」



今頃ベンチにでも座り込んで露店してんじゃねえ?

人伝に聞いた限りじゃ居眠り常習犯らしいが、アイツ本気で仕事する気あんのか。今日もねこけてやがったら壁にめりこましてやる。

そうやって一発蹴り入れた後、決まってニヤニヤしながら露店畳み始めるのが毎度気持ち悪ぃんだけどよ。ぜってえ頭のネジ三本くれえトんでるよな、アイツ。



「え。あの相方君と付き合い始めたんだよね? そう噂で聞いたんだけど…。」

「んー…いやまぁそうだけど。なんか響きに違和感あんな。」



お決まりのように挨拶代わりに寄越された「相方君とはどうなの!?」みてえな問いに、「あぁ、一発ヤったけど?」と返してはおいたが、それが噂話に興味がなさそうなおまえにまで届いてるってことは、結構浸透してるわけか?

まま、おかげさまで最近よくこの手の話題を振られるようになったが、長年相方としてやってきたアイツの立ち位置は露ほども変わってねえのよな。

付き合ってようが相方だろうが、やること変わんねえし。変化がねえんだよ。

どんな答えを期待されてんのか知らねえし、応えてやる義理もねえが、気まぐれに答えを探してやろうにも今更すぎて何を言えばいいやら。

まぁでもあれだろ?

コイツの場合は、今“恋”とやらに悩んでるらしいから、ぶっちゃけアレが聞きたいわけだろ?



「ヤることヤってんのって話? そりゃあがっつりヤってますけど?」

「ちょっ…!」



慌てて左右を確認してるが、今さっきここを密室にしたのはおまえだろうがよ。

鍵に特殊なモン使ってるらしいから、例えテロで街中がブッ飛んでも邪魔は入らねえと思うぞ。

いいから人の口両手で塞ぐのやめろ。

目を細めて呆れてやったら、ばつが悪そうに離れて行った。

ただまだ話は終わってねえらしく、胸の前で人差し指を突き合わせながら地面をねめつけている。

てっきり「こんなとこでヤるとか言うな!」って怒鳴られんのかと思ったけど、今日はそんな余裕はねえわけか真面目君。珍しいな。

時折上目遣いに様子を窺ってくる。

あーはいはい。俺まだここにいなきゃいけねーのな? 面倒くせえ。

早く終わらせようと視線だけで先を促したら、ようやくちゃんと面が上がった。



「レモンって元ノンケじゃない?」

「今もノンケですけど?」



首を傾げたら一瞬ビビった様子だったが、目線を泳がせて考える素振りを見せてから、すぐに勢いよく上半身を乗り出してきた。

反論したかったんだろうが、パクパク口を動かすだけで声には出さない。

しばらくしたら長い溜息を吐き出された。一体何なんだよ。



「だからさぁ、その、何がきっかけで付き合おうって思うようになったのかなぁって…。」



プライベートな話をするような仲じゃあなかったはずだが、こうやって俺の前で自分をさらけ出さざるを得ない理由はやっぱあの男か。

何度かここまで乗り込んできてたよなぁ。つうか前からよくあったらしいじゃん。いつも通り素気なくあしらえばよくね?

何急に本気みたいになってんの? どうでもいいけどよ。



「なんでって。『抱いて。』って言われたから?」

「ぶ。」

「んだよきたねえな。」



唾でも飛んでくるんじゃねえかって勢いで吹き出された。

自ら話題ふっといて、いちいち内容に過剰に反応してんじゃねえよ。

まぁ俺もあの時は、「そうきたか。」とは思ったがな。アイツたまに何考えてんのか読めねえわ本気で。



「言われたからって普通は実行できないから!」

「言われたっつうか言わせた?」

「ますます意味がわからないんだけど!」



アイツさー、俺の顔色窺って生きてるくせに、肝心なとこ鈍感なわけよ。

じめじめして面倒くせえし、ふらふらするし、鬱陶しいからいっちょあからさまな罠に引っかけてやろうと思ったの。

簡単に言えば女使って追い詰めた? このままじゃ俺が一生他のヤツのモンになっちまうぞー、っていう? 俺にはわからねえ感覚だが、協力者曰く「コレは効くわよ!」とのことだったので、まー採用させてもらったわけだ。

結果見事ハマってゲロったわけだが、今思えばちっと単純すぎやしねえか。



「なんで? なんでそんなことしようと思ったのさ?」

「なんでって。ほんとは俺に抱かれてえくせに代用品ばっか探すから?」



しかもおまえ面食いのはずだろって突っ込みたくなるようなムサい男ばっかな。

この俺様が、あの程度の男どもと同レベルに扱われたのが気にくわねえ。

ちっと頭蓋骨ブチ開けて、中身掻き回してやればよかったかと軽く後悔してんぜ。

…今からでも遅くねえか?



「そうじゃなくて! おまえが抱くのに抵抗はなかったのかって話だよ!」

「俺アイツで抜けるけど?」

「それノンケって言わない!!」



知らねえよ。

ノンケの定義なんざ知りたくもねえし。



「言うだろ。別にアイツの全裸見たってタたねえし。」



無茶言うなよなー。ガキん頃から風呂なんざ一緒によく入ったし、俺よりゴツい体してんだぞ。俺様よか小さいが、同じモンぶら下がってっし。

あれに欲情しろっておまえ、それあんまりじゃねえ?



「てーか何をそんな必死んなってんだよ。」

「ひっ…しって言うか…。……もうどうしていいかわかんないんだ…。」

「あぁ?」



急激にしょぼくれやがった。

眉間に皺が寄って、地面を睨みつけるようにしてる。

ほんとどうしちゃったわけよ。いつもツンと澄ましてるおまえらしくねえじゃん。



「失いたくないけど受け入れられるかわからなくて、受け入れられなかった後が怖い…。」



ふうん? そんなもんかね。面倒くせえとこで悩み始めたな。

まーあれだ。レンアイ相談してえんだったら、相手のチョイス間違ってんぞ。

親身に聞いてやる気なんざこれっぽっちもねえや。

はーい残念賞。他当たってくださーい。俺様心底どうでもいいでーす。そろそろ解放してくださーい。



「ダメな可能性が一パーセントでもあるならやめとけ。」



さぁ話は終わりだ、帰るか。と思って横を通り過ぎたら、鍵に手をかけたところで法衣を引っ張られた。

振り返ったら嫌に真剣な瞳とぶつかる。

えー何、まだ何かあんの?



「レモンは…なかったの?」

「あぁ?」



何がないんだと思ったら、ダメな可能性って部分か?

つーかそもそも、そんなとこで引っかかる時点で論外だろ。

もっとシンプルに考えろよ。



「あーなかったな。だって。」

「だって?」



そんな目で縋ってくんなよ。おまえが満足する正解なんざ、俺は持ってねえよ。

んなもん人にどうこう言われて決まることじゃねえし、ましてや余所を参考にしようなんて儚い期待するもんじゃねえ。

俺様が俺であって、アイツがアイツだったからこそ成り立ったんだよ。

どうにかしてえなら、おまえがおまえであって、あの男があの男であるからこそ成り立つ形を見つけろよ。

急かされてんなら、「待て」でも覚えさせて躾けな。そこまでしたくねえなら放っておけ。

俺らだって出会ってから十数年はかかってんだ。ショートカットの方法なんざ知らねえよ。



なぁ、ラムネ?



「もう体の一部みてえなもんだった、から?」



失いかけて気付いた。

傍にあって当然だった。他人に切り落とされたら痛かった。自分の目の届くとこに置いときたかった。



ただ、そんだけ。

回り道だって、悪くないぜ?



(聖)レモン:プリースト。おいコラてめえ、案の定安らかにお眠りになってんじゃねえぞ。

(黒)ラムネ:ブラックスミス。なんかすげーいい夢見た気がすんだけど、なんだったっけ?





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