HOME SICK 【2010年頃の拍手SS再掲載キャンペーン】 (『霊酒つくよみ』の元となったSS、ライ修羅) 「きゃはははっ」 「ぅっ、ぅぇえええええん」 じゃんけんして、攻防を決めるゲームをしたの。 これは反射神経を鍛える特訓なの。 夜兄様の仲魔で強いのはアマツミカボシ。 あいつ負けず嫌いだから、容赦無いわ。 弱いのがヨシツネ。 『餓鬼に手ぇ上げっかよ』 とか云って、アリスに叩かれたらあの帽子……烏帽子だっけ? あれがべっこべこになっちゃって、大笑いよ。 で、今の相手は矢代お兄ちゃん。 悪魔の所為で小さくなっちゃって、夜兄様が今解決方法を探して駆け回ってる訳よ。 で、優しいお姉さんのアリスが面倒をみてる訳! カラン 事務所扉のベルの音。 続くヒールの音ですぐ分かったわ。 「……ミス・アリス」 「夜兄様! おかえりなさい!」 ん? なんだろ、哂ってない。 ゴウトにゃんを脚にくぐらせて、帽子のつばをくいって上げた。 その眼は、アリスの傍で大泣きする矢代お兄ちゃんを見てる。 アリスより少し年下の人修羅を。 「泣かせたのかい?」 「遊んでたの! ゲームで」 「フ……ゲーム? ヨシツネを業魔殿送りにしたあの?」 「たかがゲーム! されどゲーム! 戦いには勝つ!」 「賛同はするが、相手を考え給え」 まぁだびいびい泣いてる矢代お兄ちゃん。 外套をなびかせて降りてきた影に気付いて、とぼとぼ歩き出したの。 「ぇう~……っ……すん」 「……おい、君」 夜兄様の外套の端を掴んで、その長い脚ごとぎゅうってしがみ付いてる訳。 で、もうアリスちゃん、うくくって唇がぷるぷるしちゃった。 だって、おかしいんだもん! 夜兄様、表情がころころ変わるの。 「功刀君……外套で鼻を拭うな」 「っ……!」 ああ、あ~んな怖い眼で云ったから、まぁた爆発寸前。 小さくて細い斑紋が、代わりに先走ってキラキラ啼いてるわ。 それを見下ろして、ぎょっとする兄様。 『……泣かしおった』 手摺で寝そべるゴウトにゃんがぼそって呟いたら、夜兄様がひくりと引き攣った。 「おかしい……僕は子供から比較的なつかれるのだがね、どうしてこいつは」 「っぇえええええん!!!!」 あんな苛々した声で云うから、いよいよ矢代お兄ちゃんが爆発した。 と、その瞬間、利口なアリスちゃんは傍のティーカップを指にして跳んだ訳。 小規模な晩餐が始まったから。 『おい! ライドウ止めんか!! お主がサマナーだろう!』 ミキミキいって割れそうな床板で飛び跳ねるゴウトにゃん。 わあわあ泣いちゃって魔力をビシビシ飛ばしてるチビ矢代お兄ちゃん。 「おい功刀!いい加減に」 「わああああああ」 悪化。 カップの紅茶も大時化。 「……本当にいい加減にしてくれ……っ」 刀に手を伸ばした兄様、ゴウトにゃんが一瞬強張ったけど…… アリスには解ってるもん。 その抜刀された刃先は、晩餐の脈を絶って、割れる音は消えた。 MAGがその柄から立ち昇っている、兄様の刀から、人修羅のMAGが流されているの。 「何がそんなに不満なのだ、君は」 少し床に突き立てて屈んだまま、たずねる夜兄様。 うるうるした金色で、矢代お兄ちゃんは云った訳。 「…さみしい」 「は?」 「お父さん」 「おい、っ」 「おとうさぁああん」 ぎゅむ、とやっぱり抱きついてる、首が苦しそうな兄様の顔ったら。 「……僕は君の父では無いし、君の家は此処ですら無い」 ずれた帽子をそのまま長い指先に掴んで、そう云う兄様。 「一度だけだからね」 小さく撥ねた黒髪に、ぽふりと学帽を乗せて、矢代お兄ちゃんが「きゃっ」と声を弾ませた。 おんぶされて、かなり御機嫌なのかしら、やっぱり首をぎゅうぎゅう抱き締めてる。 「おとうさん……」 「おい、だから絞めるな…っ、それに僕は君の父では無いと何度云えば」 「じゃあ、なに?」 「……君の……」 え、え? え? なんて云う訳? デビルサマナー? 御主人様? そんな云い方まずいでしょ、ちっちゃい子に。 顔を何故か私とゴウトにゃんから逸らして、ぼそりと呟いた。 「夜」 なにその回答。 「よる?」 「…そう、そう呼べば良い」 「よる! よるっ!」 「…連呼しなくて良いよ…全く…どこまで幼児退行しているやら」 「よる! だぁいすきっ!」 アリスちゃんの紅茶噴射、皆にも見せてあげたかったわ。 それと、夜兄様が顔を真っ赤にして、で、そのまま事務所から逃げてったのも。 え? 矢代お兄ちゃんをおんぶしたままよ? ありゃこの界隈で話題になるわね…… 「ねぇ~ゴウトにゃん?」 『おい、鳴海の事務所な訳だが、地割れしとるぞ』 「……そんなに家に帰りたい?」 「おうち、かえりたい」 「帰ったところで君の身内は居ないよ」 「でもここもちがう」 寂しげな金色は同じ。 帰る場所を求めている。 土手の水流に桜が流れて消えていく。 橋を、君をおぶったまま渡る。 「帰らずとも良いよ」 「んにゅ」 「僕の帰る場所が無くなるからね」 だから、そんなに素直な子供のままで居るのは止してくれ。 僕まで素直になりそうで、怖い。 怖い。 背中の、君の幼い笑い声に、吐き出しそうになる。 今なら云えてしまいそうな言の葉達は、桜と共に水に融かした。 -了- ▼ PIERROTの『HOME SICK』からイメージ。 今読むとノリが結構違ってヒヤヒヤする、赤面を晒さないだろ夜は。 (2025/4/7) 拍手をありがとうございました!メッセージを入れて頂いた場合は、BLOGにて返答させて頂きます。 (最近は更新の際にまとめて返信する事が多い為、早めに反応欲しい方はwaveboxなどご活用ください、twitterプロフのリンク集参照) ※返信不要の場合は、記入欄下の「レス不要」にチェックを入れてください。 |
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