はぁはぁはぁ。
 信号待ちで足を止めると、思いのほか息が上がった。
 目的地は直ぐそこだというのに。
 目の前を通り過ぎていく車を睨みつける。無意味だと分かっていても、この苛立ちを何かにぶつけなければ気がすまない。




「もしもし」
『キヨ?』
「何?ってか、あんた今日南ちゃんとデートじゃなかったっけ?」
『……俺さーふられちゃったんだよ、南に』
「えっ」
『キヨ今家に居たりする?』
「そうだけど、あんたは今どこにいんの?」
『ロケット公園』
「分かった。直ぐ行くからちょっと待ってて」


 あんなにラブラブだったのになんで、とか。
 こんなに走ったのは久しぶりだよ、とか。
 思う事はいっぱいあるけど、今は1秒でも早くあいつの元へ。
 一番最初にあたしに電話した事を、後悔なんてさせないように。




 はぁはぁはぁ。
 小さな公園だから、入り口に立てば一発で見つけられた。
隆弘はベンチで空を仰いでいる。それが落ち込んでいる時の癖だという事、あたしの他に知っている人は何人いるのかな。
「隆弘」
「…えっキヨ?うわっ早!」
 目が合えば、隆弘は笑った。
「ここで俺が、全部嘘でしたーとか言ったらどうすんのお前?ドッキリ大成功じゃん」
 アハハなんて笑い声まで上げたりするもんだから、心の底から腹が立った。
 無理して笑わせるために、あたしは全力疾走してここまで来たんじゃない。
「笑うなバカ!泣きたいなら泣きなよ」
「男の子は泣いちゃいけないんだぜ。小学校で習わなかった?」
 隆弘は相変わらずヘラリと笑う。
 なんだかこっちが泣きたくなってきた。
「まぁそんな所に突っ立ってないで座れよ」
 自分の隣を指してそう言うから、大人しく従う。
 すると、隆弘が肩に頭を乗せてきた。あまりに急な展開すぎて声も出ない。
「男の子はさー泣いちゃいけないから、ちょっとだけ肩貸してよ」
 隆弘が喋るごとに揺れる癖っ毛が、頬を撫でてくすぐったい。

「……全部嘘だって、言えたら良かったんだけどな」


 文脈がおかしいから意味わかんないよ、とか。
 あんたがふられて嬉しくないって言ったら嘘になる、とか。
 思う事はいっぱいあるけど、今はこの肩の重みを支える事だけ考えよう。
 悲しい時にも泣けない可哀想な男の子が、頼りにしてくれたから。









お題「今日、部屋にいるかい?」  配布元・BALDWIN

2007/06/17
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