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テーマは「嘘」です。

FGO/マンぐだ♀
(一ロビ要素ちょっとあります)


 俺の生前って言やぁ、まぁ……正直、そんなに大声で話せるようなもんではない。
 嘘だらけ偽りだらけ虚勢だらけ。もちろん真実も自信も誇りもたくさん持っていたけれど、それを貶めてしまったのは自分自身だ。
 だからだろうか、俺は、誰かの嘘に少しばかり敏感だ。それも、……うん、自分の一番好きな人の嘘とあっちゃあ、どうしても見逃せなくなってしまうのだ。

「マスター?」
「ひゃ、はわ!?!? あ、マンドリカルドごめんねわたし今忙しいっ!」
「……あー……」

 伸ばした手は虚空を切り、マスターは俺の前から駆け抜けて行ってしまう。こんなのがここ一週間続いている。……なんか、したっすかね、俺……。胸の内に問いかければ、心当たりしかないような気がした。あの時ハイタッチしたのが馴れ馴れしすぎたか!? それとも、「立香」ってうっかり呼んでしまったのが悪かったっすか!? あ゛ー……あの時に帰って自分をぶん殴りたい。頭を抱えて食堂にしゃがみこめば、「邪魔」と誰かに蹴り飛ばされてしまった。

「うおマンドリカルドか。人の往来でしゃがみこむんじゃねぇよ」
「! ロロロロロロビンさんっ! ちょっとご相談があるっす!」
「は?」

 このコミュ力高くて色んな大人の対応知ってそうな人に聞けば! なんか分かるはず! 意気揚々と立ち上がり口を開いて――何も、言えなくなってしまった。

 マスターが嘘をついてるから、なんだっていうんだ。
 マスターだって一人の人だ。俺みたいな三流サーヴァントに隠したいことはたくさんあるだろうし、嘘の一つや二つ、たくさんたくさん吐くだろう。それのどこが悪いんだ。ちっとも悪くぬぇーっす。でも、じゃあ、俺は一体何が苦しいんだろう?

「あ、れ」
「!?!?!? テメッ! こんな人の往来でなにして……っ!」
「うわロビンちゃんがいたいけな少年泣かせてる~」
「斎藤の旦那は首突っ込まないでくれますかぁ!?!?」

 人が増えた。ロビンさんはぎょっと目を見開き慌てているし、急に現れた斎藤さんはへらりへらりと笑っているし。ああダメだ、困らせるのも見世物になるのも別に求めちゃいない。それなのに涙が止まらない。マスターに嘘を吐かれたこと、彼女に嫌われたかもしれないことがいやで、嫌でたまらなくて勝手に涙が出てしまう。俺ってこんな、情けない奴だったすか? ……うん、そうだな、多分これが俺の本質なのだろう。我がままで欲深で自分勝手。そんな己にほとほと嫌気がさしてもっと涙が出てしまった。

「ぐず」
「ほれタオル! さっさと拭いてマスターのとこ行ってくれませんかねぇ!?!?」
「リカちゃん、一番何が辛いのか、よーく考えてみな?」
「なに、が」

 斎藤さんの言葉を嚙み砕いてみる。俺は何が嫌なんだろう、なんでこんな風になっちまったんだろう。脳裏に浮かぶのはオレンジ色だ。日の光を受けてきらきらきらきらと輝く眩しい光。俺はその光が好きだった。ずっと、ずっと見ていたいと思っていたんだ。

「ロビンちゃんもさ~まだるっこしくてめんどくさくてややこして落とすの大変だったんだけどさぁ」
「死ねこのクソジジィ」
「でもさ、そのややこしい先に答えって案外あるのかもよ」

 笑った顔は、俺の知らない大人の顔をしていた。
 さっさと死んだ自分にはわからないくらい、きちんと人の世を生きてきた大人の顔。ロビンさんも鼻を鳴らしたけれど言い返しはしなかった。ただ一言、付け加えてくれたけれど。

「マスター、オレにも相談してましたぜ。マンドリカルドとちゃんと話したいんだけど、って」

 涙を拭いて立ち上がり、そして駆け出す。マスターの場所なんて知らないから、あちこち色んな人に聞いて。

「マスターか? 余も探しておるのだが……部屋にはいなかったぞ! もしいたらネロ&ビーストのリサイタルに誘うと伝えておいてくれ!」

「マスター様ですか……? ふへ、ふへへへへへ、ゴッホが知ってたらよかったんですけど知らないんですよね本当にすいませんごめんなさいあっでも今度マスター様にモデルになっていただくよう頼んだんですが、もしよければマンドリカルド様もご一緒に……なんて……ふふふふふだって二人、揃って描いたらとってもとっても絵筆が乗りそうなんです!」

「マスターか。トレーニングルームにはいなかった。最近よく励んでいたが、何か打ち込みたいことがあったらしい。随分といいジャブを打つようになった」

「マスターかい? そうだなぁ、ここは騒がしいからさ。たまには一人で外にでも出たくなったんじゃないの」

 色々、いろいろな人に聞いた。そして最後に会った金髪のガンマンはにっこりと微笑んだ。外。でもここはスチーム・ボーダーで。でも俺は思い出す。そして走り出す。
 白い白い甲板の上。風が強い。空は青い。そこに白い服を着て彼女が立っている。

「マスター!」
「!」

 飛び上がらんばかりにびっくりした彼女は、振り返って俺を見つめる。逃げられる前に俺は彼女の手を掴む。小さな、小さな手だ。でもたくさん戦って、たくさん一緒に歩いてきた手だ。

「ま、まんどりかる、ど、あの、あのね、ずっと、ずっと話したかったん、だけ、ど」
「好きっす」
「へあ」
「立香が俺のこと好きか嫌いかなんて関係ない。俺、立香のことが好きっす。だから嘘つかれたら悲しいし苦しかったし寂しかったんっす」
「ほ、あ」
「ごめん、俺、自分のことしか考えてない独りよがりの告白で。……伝えたかった、だけ、なん、で……」

 最後の最後が恰好つかない。尻すぼみで俯いて、でも彼女の手は離せなくて。でもこのかっこ悪い俺が、この俺が正真正銘今いる自分自身だった。かっこ悪いところも情けないところも全部曝け出して、嘘一つない姿で俺は彼女の前に立つ。

 白い、白い服を着た彼女は息を呑み、そして、「うそ」と呟いた。

「嘘じゃぬぇーっす。本当に、これは絶対」
「だ、だって、わたし、も、まんどりかるどが、好きで、だから、避けちゃって、こんなひどいことしてるわたし、好きになってもらえるはず、ないって」
「!?!?!?!??!?!? す、好きっ!!?!?!?!?!?」
「す、すきだよ! 好き、わたしも、マンドリカルドが好き!!!」

 びゅうびゅうと風が吹き荒ぶ。でもその風に負けないように叫んでくれた彼女の言葉で、俺はぎゅう、と細い体を抱きしめる。熱くて小さくていとおしくて、ああここには何一つ嘘はない。

 嘘だらけ偽りだらけ虚勢だらけ。
 そんな自分が、ただ一つようやく果てに手に入れた真実は随分と人らしく、ただただ温かった。



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