□□ライヴを観に行きました□□(光謙)




※携帯サイトで掲載されている光謙のリーマンパラレルシリーズのお話です。※





「謙也さんライヴ行きませんか?」
「え…」

俺の誘いに戸惑った様子でこちらを凝視している。
何故顔が赤くなるのか、疑問に感じて首を傾げてみせた。



事の発端は一ヶ月前。
いつもの様にスカイプで話をしていると、仲間の一人にライヴへ誘われたのだ。
某動画ではそこそこ有名でバラードからラップ、シリアスからコミックソングまで歌い熟す歌い手だった。
今は東京に住んでいて、週末になると仲間達を集めてライヴを開催するそうだ。

『今度、光の地元で小さいライヴハウス貸し切ってやるけどどう?』
「大阪で?」
『ああ。歌い手5、6人集めてな。光の曲もやりたいけどいいだろ?』
「ええよ」

簡単に承諾すると、他のヤツらから羨ましそうな声が飛び交う。

『いいなー大阪。粉モン食いてぇ』
『私もー!行っちゃおうかな』
『おお、来い来い。人少ないだろうし』

自らを謙遜する様な言葉に笑ってしまった。

「どうだか。自分めっちゃ有名やんか」
『ハハッ、でも西はまだ行った事ないからなぁ。あ、あの先輩さんも連れてこいよ』

すぐ隣の部屋で寝ている彼を思い浮かべて即座に断った。

「アカン。あの人はボカロ分からんから」

俺の趣味なんて全く分からないあの人を連れていっても楽しくないだろう。それに、お荷物になるだけだ。

『大丈夫だろ。歌うのは人間だからさ』
「んー…」

はっきり返事を出来ないでいると、他のヤツから茶々を入れられる。

『彼女さんだっけ?』
「ちゃうわ!」

すぐ否定したが、皆から大笑いされた。

『まぁどっちでもいいわ。楽しみにしてるから』

そうしてすぐ話題が切り替わってしまった。
ライヴに参加するのは俺一人で充分だろう。謙也さんも居辛くてつまらない思いをするかもしれない。
迷いに迷って、ライヴ当日を迎えてしまった。


「で、どうします?」


ライヴは夕方6時開演で、今からちょうど6時間後になる。
ダイニングでのんびり昼飯を作っていた謙也さんに問いかけてみれば、こちらを振り返って包丁を持ったまま固まってしまった。

「え、いつ?」

やっと出て来たまともな返事にそっけなく答えた。

「今日の夜6時」
「今日!?な、何で早よ言わへんの!」

相当驚いたらしく、右手から包丁を落としそうになる。

「タイミングがなかったから」
「あったやろ!同居しとんのに…ええ、どないしよ。服とか買いに行く時間あんのかな…」
「行くんですか」

完全に行く気になっている謙也さんに驚いて思わず聞き返してしまう。

「当たり前やろ!財前が折角誘ってくれたんやから」

満面の笑みで答えられても不安しかない。

「一応、ボカロですよ」

アンタの知らない歌ばかり聞かされますよ。そう伝えても、彼の気持ちは揺らがないらしい。

「財前が色々教えてくれるやろ?」
「はぁ、まあ」

面倒臭い事になった。思わずため息を吐きながら、今夜のライヴを想像して頭を抱えた。



夕方5時半頃。
ライヴハウスに到着すると、既に開場が始まっているらしく入場待ちの列が出来上がっていた。耳にイヤホンを差して曲の予習していたり、周りの客と騒がしくトークに華を咲かせていたりしていた。
昼食を食べ終えた後、謙也さんに引っ張られてデパートに連れていかれて新しい服を買ってくれた。お出かけするなら気合い入れなアカンで!と意気込まれたが、正直そこまで楽しみにされると困ってしまう。
入場列に並んでライブハウスの入口まで進むと、チケットを切っていたスタッフに声かけられた。

「おー、光やんか!」
「何や、自分手伝っとんの?」

見知った顔に気づいて答えた。

「もしかして、同居している先輩さん?」

俺の後ろにいた謙也さんを指差しながら訊かれる。

「まあ。これ、スカイプ仲間の一人」

軽く紹介をすると、謙也さんはきょどりながらも頭を下げた。

「これはないだろ、折角はるばる横浜から来たのになぁ」
「横山やろ」

前にスカイプで、住所は横浜なのに周りは山ばかりと話していた事を思い出した。

「うっせぇ!ま、先輩さんも楽しんでって下さい。コイツの歌、本当良いんで」
「歌?」
「あーはいはい。さっさ行きますよ」

慌てて彼に半分に切ったチケットを押し付けて、謙也さんの左腕を掴んで会場の中に入った。
自分の趣味を説明するという行為が恥ずかしくていたたまれない。
壁にバンドのポスターや写真が乱雑に貼られた廊下を進んでいくと狭い空間にライヴ空間が広がっていた。
スタンディングの客達が場所取りを始めていて、一段上がった小さなステージにはピンマイク3つと楽器が用意されていた。

「へぇ結構おるんやな。びっくりやわー」
「あっちの隅に行きましょう」

真ん中に立っているとモッシュに巻き込まれる危険性を考えて、右側の壁近くに場所を移動した。

「どうしたんですか」
「あの若い子、財前の顔見てヒソヒソ話してるわ」
「まぁ、どっかの人と顔似てたんでしょう」

ネットで顔出ししてないはずなのに、何処かからバレたんやろな。今の所話しかけて来ないので無視した。
自分達以外の観客が気になるらしく、興味津々に周りを見渡している。

「女の子多いな」
「タイプでも見つけたんですか?」
「ちゃうわ!でも比率が…」

あまり周りをじろじろ見ないでほしいと返そうとした瞬間、室内にある非常灯以外の明かりが消えた。

「始まるみたいやな」

右手側からバンドメンバーが位置について楽器を鳴らし出す。序奏を終えてから、今回主催をした彼が登場した。

「こんにちは!」

客が元気良く挨拶をし返す。隣の謙也さんも恥ずかしげもなく声を出していた。

「今日は俺らのライヴへようこそ。初の大阪出陣で歌い手やバンドメンバーいつもより気合い入ってます。皆、盛り上がっていこうぜ!」

あいからわず客を煽るのが上手いよなぁと思いつつ聞いていると、他の歌い手が登場した。
一曲目はフルメンバーで合唱だが、あとは歌い手が曲によって代わっていく。
某動画でメジャーな曲からマイナーな曲まで歌っていく。

「ええ曲ばかりやな…」

謙也さんも楽しんでいるみたいで安心した。
ライヴが中盤に差し掛かった時、聞き覚えのある伴奏が流れ出した。

「あ、これは」

俺が作った歌だ。最近完成したばかりで、某動画に上げるとすぐにミリオンを達成した。
歌ってみたの動画で耳にした事はあるが、初めて生で聞く歌だ。
元々女声に合わせたモノだからか音程を一つ低くしているが、男声だとまた一味違ったモノとなる。
観客の聴き入っている表情や歌い手のしっとりと歌い上げている姿に男声でも悪くないなとひっそり思った。
曲が終わると、ライブハウスの壁が震え出す様な拍手が鳴り響いた。

「ありがとう。俺が一番好きな歌です。初恋の気持ちを歌ったものですが、辛い時や悲しい時に背中を押してくれる。そんな勇気をくれる歌です」
「うわ、恥ずかし」

自分の作った歌の感想を聞く程、照れ臭いモノはない。俺以外の観客が相槌を打っているから同じ気持ちなのだろう。
それから後半に向けて盛り上がる歌になっていき、最後はバラードでライヴを終えた。
ステージ上では歌い手達が横に並んでいて会場を後にする観客一人一人に御礼をしていた。
おかげで長蛇の列が出来上がっていたが、ファンにとっては嬉しいサービスだろう。

「どうでした?」

まだ会場を出れそうにないので感想を訊いてみた。

「あの、初恋の歌が一番良かったわ!」

嘘ではなく、心の底から本気で思ってくれたのだろう。

「そうですか」

無意識に口元が緩みそうになるのを必死に堪えていると、今回のライヴの主催者である歌い手が俺達に気づいた。

「光!」

彼に声をかけられても足を止めるわけにもいかないので、歩きながら感想を口にした。

「お疲れ様。めっちゃかっこよかったわ」
「ありがとう!先輩さん?もどうだった?」

俺の隣にいた謙也さんに勘づいたらしく、同じく声をかけてきた。

「ほんまにかっこよくて、特に初恋の」
「それは、」

彼が説明する前に謙也さんの背中を押した。

「はいはい、行きますよー」

知られたくない。
ふんわりと柔らかい曲調に女の気持ちになって書いた歌詞。それを俺が作ったなんて知られたらどんな反応を示すのだろうか。
絶対、バカにされるに決まっている。
笑われるのがオチだろう。

「うわ、ちょ」

急に背中を押されて戸惑いながらも足を動かしてくれた。
俺の慌て振りを見て、彼はステージから笑い声を上げていた。



「財前やろ」
「え」

会場から出たところ、謙也さんが呟いた。

「初恋ソング。違ってたらすまんな、なんかそんな感じがしててん。不器用さとか」

思わず口を閉ざしていると、クスリと笑った。

「またライヴ誘ってな」

返事はしなかったが、また謙也さんを誘っても良いと思った。






END

■■あとがき■■
同居後、財前の趣味がバレた後のお話です。
全然知らない曲ばかりのライヴでも彼と一緒なら…みたいな感じですかね。
初恋ソングについてはご想像にお任せしますw。

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