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あぴ清十郎



<拍手お礼小話>  月下に踊る



 秋の空は涼む空気に澄み渡る。

 季節はずれに催される避暑地での夜会に備え、千家子爵は前日に現地へ入った。

 当日は昼から夕方まで、こちらで安穏と隠居生活を送る政界の影の実力者との会合が控えている。帝都を発つ前に不測の事態が起こらぬとも限らないため、早目に部下へ必要な申し送りを済ませると、余計な業務を持ち込まれぬうちに慌ただしく出かけたのであった。



 同様に数日前から現地に滞在している参加者の中にも、会うべき人間は控えている。

 夜会の前日、子爵は滞在する別荘のとびきり内装豪華なティ・ルームへ、会合相手を極力夫人や愛人を同行させて招いた。

 指折の菓子職人が腕を振るったいかにも婦人の好みそうな洋菓子に、いかに富裕層でも手に入れるに難しい希少な酒と茶とを振る舞い、相手毎に用意した旬の会話に男の矜持をくすぐる少々の賛辞を織り交ぜ、帰り際には柔和な笑顔に乗せてゆめゆめ協力お忘れなきようと甘い声で囁くと、ほろ酔い加減の相手は皆、満足げに頷いた。



「あら。」

 玄関口で名残惜しげに振り返った夫人が、緩む頬を隠すようにレエスのハンケチーフで口元を覆い、小声で尋ねる。

「あの殿方は、千家様の?」

 目線の先には、暗い庭でひとり、空気を相手にワルツを踊るチョッキ姿の青年がいた。

「えぇ、側近です。夜会での作法はひと通り躾けたのですが、何分久し振りなもので、ご婦人方の小さな足を踏むような粗相は避けねばと、必死なのでしょう。真面目一筋の健気な男です。」

 そうでしたの、と夫人がはにかみながら夫を見やると、夫の方も、明日お会いするのが楽しみですな、と顎鬚を撫でた。

「連れるご婦人もおりません。気が向かれましたら奥様、どうかあれにもお相手をいただきますよう。・・・お許しいただけますか。」

 腰低く夫に伺いを立てると、男は寛大さを強調するかのように両手を広げて微笑み、夫人の手を引いて馬車へ乗り込んだ。



 馬車を繰る御者の明かりが見えなくなると、それまでひとりくるくると舞っていた京一郎はひたりと動きを止めた。

「あの方で最後ですか。」

 玄関ポオチで暗闇を見つめていた長髪の子爵は、ゆっくりと振り返ると、やっと業務終了だ、と肩を竦めた。

「お帰りになる頃を見計らって庭で踊っていろとは、随分な言い付けでしたね。」

 京一郎が恨めしそうに言うと、子爵は楽しそうに低く笑った。

「効果はてきめんだ。連れのご婦人方は皆、健気にワルツの練習をするお前の姿にぞっこんだぞ。これからの交渉にしても、彼女らには夫への良い口添えを期待できるだろう。」

「えぇ、そうでしょうとも。貴方仕込みの、あざとい技巧を駆使しましたからね。・・・まったく。言葉も使わず媚びを売るのがこんなにも得意になるとは、思いもしませんでしたよ。」

「お前は多方面に秀でているからつくづく助かる。」

「嫌味ですか、それは。」

 冷たく返されても面白そうにくつくつと笑う子爵へ、京一郎は片手を差し出した。

「・・・なんだ。」

「ご褒美は?伊織。」

 普段から慎ましく、欲しいものはと聞いても帳面だとか下着だとか、必要最低限のものしか答えないこの部下が、自ら無心をしてきたことに、子爵は首を傾げる。

「珍しいな、お前が無心とは。」

「昼からずっとティ・ルームの様子を伺い、時機を見ては踊り回るを繰り返していたんです。いい加減、草臥れますよ。私の働きを評価なさるのなら、報酬を求める権利くらい下さってもばちが当たるとは思えませんが。」

「それは丁度いい。これから閨でさんざん可愛がってやろうと思っていたところだ。」

 妖艶に微笑む子爵に、京一郎はまたもやつれなく返す。

「厭ですよ。どうせ貴方は私の腰を立たなくして、明日の夜会で粗相させるつもりなんだ。踊りの練習のし過ぎで足がもつれた振りをして、ご婦人に抱き着けとでも言うつもりだったんでしょう?」

「言う手間が省けて助かるな。」

「御免です。大体ね、私が踊りたい相手は、一人だけですから。」

 そして左腕を背に折り曲げ、もう片方の掌を柔らかに差し出して膝間付く。

「お相手を申し込んでも?」

「何のつもりだ。」

「練習の成果を見ていただきたく。貴方は私の踊りのお師匠でもあるのですから。」

 少し夜風に当たり気分が良かったのか、長髪の子爵は小さく鼻を鳴らし、婦人のようにその右手を京一郎のそれに重ねた。

「一度足を踏む毎に、一つ罰を与えてやろう。」

「望むところです。」



 血管の薄く透ける白い手の甲に口づけを落とし、立ち上がって一礼。

「タン、タラタン、タラタンタラタンタラタンタラ・・・」

 京一郎が有名なワルツ曲の前奏を口ずさむと、子爵は意地悪そうに目を細めた。

「ショパンか。速いぞ?」

「私の足、踏まないでくださいね。」

 夜会に参加する婦人は、多くが結い上げた髪に飾りを着けて現れる。うなじや胸元の開いた洋服を着て、胴を金具の下着で縛っている。たまに呼吸に難を覚えて失神するから気を付けろ。彼女らの多くは、少し踊っているうちに自ら腕を保つことを止め、相手の腕にその重みを任せ始める。華奢で可憐なはずの女たちは、たちまちのうちに重たい塊になってしまう・・・。

 踊りを始めた頃に言われたことを、京一郎は何となしに思い出した。



 まとめもしない髪を風に乗せて、千家は京一郎の腕の中でふわりふわりと舞う。

 揺れた髪が、旋回して広がるたびに仄かに甘い香りを振り撒き、月明かりを反射してきらめく。

 しなやかに背を反らしながら、うっとりと目を閉じ、口元に臈長けた笑みを浮かべる。

 その姿は艶やかで可憐で、まるで月の妖精のように思えた。

「私より背が高いのに、まるで貴方じゃないみたいですね。」

 綺麗だ、と、京一郎は呟いた。

「今回の参加者の連れには異国の女がいると聞く。大女を相手にしても引けを感じさせないリィド、お前にできるか、京一郎。」

 細く目を開いて、千家は挑発する。

「見くびらないでください。」

 京一郎は不敵に微笑んだ。



 満天の星空の下、音楽もない静かな庭。

 どこからか流れてくる金木犀と淡い薔薇の香り。

 幾度かの旋回の後、不意に京一郎が右腕の力を緩め、千家の上体はぐらりと仰向けに傾く。長い髪が地に着かんばかりの位置に浮く。

 無理に上向かされた白い顔を暫し見つめていた京一郎は、小さく眉を寄せる。唇が触れるほど近く、音にならぬ声で囁いた。

「・・・こんな姿勢でいるときくらい、私を頼ったらいいのに。」

 千家の背を支える京一郎の右腕には、林檎一つに満たないほどの重みしか載っていない。

「常に一歩控えていても、ぶら下がる女は嫌われるらしいからな、昨今。」

 不安定な姿勢で6尺の長身を支える筋力など、女にあるわけがなかろう。男でも、いくら背筋を鍛えているとはいえ、こんな涼しい顔をしていられるわけがないのだ。

「そういうことを言っているんじゃありません。」

「ふぅん?」

 知らぬ素振りで相槌を打つそのすまし顔が、京一郎は時折憎らしくなる。千家の左腕の付け根に添えていた手で、無理にでも重みを得ようと彼の背を掻き抱いた。

「貴方は私に言いましたね、いつだって側にいろと。・・・えぇ、言われなくともそのつもりです。だけど私だって貴方に願う。」

 そして、形の良い唇に、そっと口付ける。

「いつまでも側にいてください、伊織。・・・私の、側に。」

 音を立て、離れる唇。

 熱く絡み合う視線。

「――っわ!」

 急に片腕に全体重を載せられ、千家を抱いていたはずの京一郎の身体は均衡を崩す。抱き合ったままもろとも草むらに転がり、気付くと千家が京一郎の上に乗って見下ろしていた。

「・・・お前は。・・・そんな口説き文句など、教えた覚えはないが?」

 京一郎は手を伸ばして、千家の頬に触れる。

「貴方に熱烈に求愛されて、私はいま、こうして居るんですよ。」

「ふん。」

「伊織、頬が熱い。」

「黙れ。」

 威圧的な言葉と裏腹に甘い声で囁き、千家は京一郎の顔を両手で包み込む。

 長く烈しい抱擁と接吻は密やかに、月明の下、虫の声に隠れる。




<了>



  診断メーカー「幸せそうな2人が見たい。」様から「長髪の軍人」で診断いただき、「綺麗な星空の下、不慣れな手つきで抱き寄せられ、真剣な声で『ずっと隣にいて欲しい』と言われて、恥ずかしさのあまり話を逸らそうとする長髪の軍人」の話(あれ、受け攻め間違ってる?!)を書くはずが気付いたら長髪の子爵様にチョッキの青年(受け)が攻めっぽく迫るお話になりました。

 あ、あとあと、千家さんが京一郎さんにダンスを教えたのなら、組んだとき女役は千家さんですよね♪というやつです。



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