「この代金、本当によろしいのですか?」

踝まで届こうかという、長いコートの裾を見下ろしながら、
ジャスティンは遠慮がちに問うた。
場所は、デスシティでも、若者に人気の高いブランド店の前。
ジャスティンに続いて、店から出てきたシュタインは、
長財布の中にクレジットカードをしまうと、ニッコリとほほ笑んだ。

「いいんですよ。滅多にない先輩のきまぐれですから、
甘えておきなさい」
「では、お言葉に甘えます。ありがとうございます」

律儀に頭を下げるジャスティン。
そんな彼を促して、シュタインは石畳を歩きだす。

「なにも、辞令を受けて即日発つことはないでしょうに」

ほら、もう日も暮れるし、風が出てきた。
掌を天へ向け、暮れなずむ光をそこに受ける。
そんなシュタインの髪を、風が揺らして去っていく。

「風が吹く夜は、初夏といえども冷えますよ。
それに、この都市を取り巻く荒野…砂埃も立つ。
出発は明日にしたらどうです」
「…ご心配はありがたいのですが」

ジャスティンの言葉には、その字面ほどには
感謝の情も、また年長者の提案を断る気まずさも、含まれてはいない。
それでいて、素っ気なさをも感じない。
無味無臭。ため息をついて、振り返ったところで、
シュタインは開きかけた口を閉じた。

表情でも、声音でもなく、彼は瞳で彼の強い意志を語るのだ。
振り向いた先で出会った瞳は、普段の軽い空色の色調ながら、
どこか暗い影を感じさせるものだった。
『逸っているのか?…それとも』
その影をどう解釈したものかわからず、シュタインは瞠目した。
再び目を開いた時には、ジャスティンは彼を追い越していた。
聳える死武専を背景にして、シュタインを待っている。

「戻りましょう、博士。もうバイクの整備も終わったころだ」
「…はいはい」
「このコート。今夜、風が出るなら、重宝しそうです。
…それに、あちらも夜は冷えるから」
「鬼神探索。最初に向かうところは決まっているようですね」

ジャスティンと肩を並べたところで、シュタインは後輩の肩に手を伸ばした。
よれて、内側に折れ曲がっていた襟を、きれいに整えてやる。
はい、できました、とほほ笑むと、見上げるジャスティンの顔も緩む。

「南ドイツの古城群です。様々な伝承が残るふるい土地…、
鬼神が潜むとしたら、そうした土地でしょうから」
「なるほど」

シュタインが、感嘆の呻きをもらしたところで、二人は
死武専の正面に建つ大門へと達した。

ジャスティンのバイクが置いてある整備室は、大門を入って西側に、
シュタインが用事を残している医務室は、門をくぐってさらに直進、
中央に建つ校舎の中にある。
必然的に、二人は大門を越えたところで、別れの挨拶を交わした。


「…一区切りついて君がここに戻ってきたら、食事に行きましょう。
マリー気に入りの、フランス料理店がいいかな。
梓や、スピリット先輩…勿論マリーも。
あとはマカ、ソウル…、君の後輩たちも一緒にね」
「楽しみに、しています」







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