拍手ありがとうございます。Sweet×Honeyをこれからもよろしくお願いいたします。 《HappyHalloween1》 ――やはり、彼女の様子がおかしい。 疑いを確信に変えて、アスランは顔をしかめた。 バイトの虫であるカガリが、アスランとのデートよりもそちらを優先させることは(悔しいが)よくある。しかし、ここ一ヶ月ほどの行動は、これまでと大きく違っていた。 彼女は奨学生だから、学業に大きく影響が出るような働き方はしてこなかった。体力に自信がある、と豪語するだけに、多少の無理はしても成績は上位をキープしていた。 だが、最近の彼女はそのバランスが崩れているように思える。 さすがに中間考査の結果は変動がなかったが、今日などは提出予定のレポートを忘れてきて、担当教員を驚愕させていた。 怪しんで、ホームルーム後にアスランが声をかけようとした時には姿が消えている有り様。周囲に聞けば、バイトが詰まっているからとすっ飛んで帰ったらしい。 何かの支払いが迫っているのだろうか。彼女の家の懐事情を知っているだけに、アスランは具体的に幾つかの事案を思い浮かべることができた。しかし、困った時はいつでも相談して欲しいとカガリには言ってある。ザラの家で日払いのバイトをするのが、もっとも効率的だと彼女だって分かっているはずだ。 アスランとしては、他のバイトをすべて絶ってくれた方がいいのだが、雇い口は多ければ多いほどいいんだ、と熱弁をふるわれて、企みは失敗に終わっている。 もうすぐ、十月も終わり――すなわち、アスランの誕生日が近付いていた。 彼女の誕生日の一件があるから、忘れられているとは思いたくない。だが、完全に安心させてくれないのがカガリという人種なのだ。 どうするべきか、と思案しているアスランの表情は、人を陥れる時のそれと酷似していた。 ■□■ 「ハロウィンパーティ?」 差し出した招待状のタイトルを読み上げて、カガリが首を傾げた。 今は昼休み。授業が終わった瞬間、素早くカガリの腕を掴んで、そのまま屋上に引っ張っていった。そうして、無言のまま手紙を押しつけたのだ。当惑もするだろう。 だが、あいにくカガリの気持ちを慮るつもりは皆無だった。 「来てくれますよね?」 否定を許さない笑顔を浮かべて、返事を迫る。アスランが退く気がないのを悟ってか、カガリがもう一度手紙に視線を落とした。 「えーと、十月二十九日、夕方の四時な。バイトも入れてないし、平気だけど……私、仮装なんかできないぞ? お菓子の準備も」 返答に、アスランは微かに目を瞠る。多忙な彼女がわざわざ予定を空けていたことに、ほんの少し期待が頭をもたげた。断られたら、バイト代を払うからと持ちかけるつもりだったのに。 だが、すぐにその考えを捨てた。あからさまなその日程に、なんの反応も返さなかったのがいい証拠である。 「それは俺が準備します」 「なら、行くよ。ハロウィンパーティーなんて初めてだから楽しみだ」 頬を染めて笑う姿が、可愛いと思う。だが、彼女相手に油断は禁物だ。きっと、彼女の中ではハロウィン=無料でお菓子を貰える! 程度の認識に違いない。 「それじゃ、私そろそろ行かなきゃ」 案の定、時間を気にしたカガリがアスランの前から消えにかかった。久しぶりにふたりきりになれたのに、恋人同士の甘い雰囲気を醸し出す余裕もない。 「昼は?」 「学食の手伝いに行ったら、余り物をくれる約束になってるんだ。じゃあな!」 不満げなアスランの問いに素早く説明を返して、カガリはひらりと身を翻した。いつものこととはいえ、金に絡んだ時のスピードは常人離れしている。 さっきまでカガリがいた空間に目を落として、アスランはため息をこぼした。 手に入るようで入らない、そんな自由奔放な彼女が好きだ、と思う。けれど、独占できないもどかしさは、いつでもアスランを苦しめた。 こんなに自分が、他人に執着をするだなんて思ってもみなかった。恋に溺れるなんて、愚か者のすることだと蔑んでいたはずなのに。 >>次ページに続く 2014-10-29 アスラン誕生日おめでとう! 黒ザラさんは楽しいです。 |
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