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此の日




朝のテントが鮮やかに輝いている。
一直線の大通りには市が立ち並び、ひとたび足を踏み入れると二度と抜け出せないような賑わいだ。
基本の生鮮食品から日用雑貨、変わったところでホークザイルのジャンクパーツやらひらひら尾をひらめかせる熱帯魚。
ヒュウガはそれらに一瞥もくれず、人混みをするりとぬう間に品定めを済ませ、店主と目が合うなり注文を告げた。
少しでも迷えば買い物かご片手のおばちゃんに悪びれなく店主を奪われてしまう。
タインミングは何事にも重要である。

その様子に呵々と店の親父が大笑してみせた。
「慣れてるねえお兄さん、その年で感心感心」
「食いっぱぐれるわけにはいかないから~」
ここではヒュウガの愛想笑いも浮かばない。馴染んでしまう。
命の脅威でも、底知れない男でも、死神の手先でもなんでもない。
むしろ休日に自炊の食材を求める、見上げた若者だ。
品物と釣り銭を受け取ってヒュウガはその場を離れた。


パンと水と切れかけの調味料。近い内に遠征を控えるので野菜やミルクは少なめ。
市のテントとテントの狭間、木陰で足を止め買ったものを確認する。
「あとは…他になにか必要なものはあったっけ。――アヤたん」
今まで後ろで静かにしていたはずのアヤナミを振り返ると、彼はまだ雑踏の中だった。
まるではじめて地面を歩いくような覚束ない足取りを、ヒュウガは木にもたれて眺める。
アヤたんも背が高いんだったな、となんとは無しに思いだす。

少し視線を上にずらすと青空を鳥がなめらかにすべって行く。
ほどなくして待ち人が隣に並んだ。
すかさず同じことを訊いてみた。ら、
「……ああ」
返事はそれだけだった。
間違っても問いかけへの肯定ではない。証拠にヒュウガが辛抱強く見つめる先で、陽光が透けてけぶるような睫毛がゆっくり瞬き、
「なにか言ったか」
ヒュウガは首を横にふった。
はぐれなかっただけ奇跡だ。

そうか、と呟くようにしてまたアヤナミはゆっくりとパン屋の紙袋を抱えなおした。
活気溢れる人混みにもまれながらも悠長なアヤナミは、海の中を漂うクラゲに似てるとヒュウガは苦笑するしかない。
生活リズム溢れるこの中じゃ、彼らも結局ただのひと。



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