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神様は信じていないけど
口付けを終えたあとの彼女の様子は変だった。
唇の端から溢れた唾液を拭おうともせず、頬を赤く染め、熱に浮かされたような表情のままぼうっとしている。
口の中に舌を入れられること、そして唇同士を合わせることすら、おそらく彼女は初めてだったと思う。
だから多少あの行為に驚いても無理はないと思うものの、それにしても様子がおかしい気がする。
彼女の目の前に手のひらを翳して左右に振ってみる。
潤んだ瞳は私を見ているようで見ておらず、手に反応する素振りはない。
まさか本当に熱があったりして。
慌てて額に手のひらを当ててみると、なめらかな肌は確かに熱を持っているけれど発熱しているような温度ではない。
しばらく額に触れていると、はっとしたように鳶色の瞳が私を捉えて、ようやく目が合う。
「……大丈夫?」
はい、と彼女は恥ずかしそうに頷いた。
そして、ぼんやりとした面持ちはそのままに、ゆっくりと口元を緩ませた。
「…マスタングさんとこうしているのが、なんだか夢みたいで…」
表情と同様に声も言葉もふわふわとして覚束ない。
貪られた唇は腫れぼったく、まるで男を誘うように赤みを増しているのに、微笑む顔は幼く見えて、その落差にかっと身体が熱くなる。
おまけに、中佐という階級以外の名称を彼女に呼ばれたのはずいぶんと久しぶりで、変な動悸が止まらない。
キスだけでこんな風になるなんて、この先耐えられるのだろうか。
彼女も、私も。
どうかこの夜は、衝動を抑えきれますように、怖がらせることがありませんように、ありったけの優しさを彼女に注ぐことができますように。
神だか何だかよく分からないものに必死にそう祈って、愛おしすぎる彼女の体にそっと腕を回した。
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