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ちょうど休憩時間だし、暑さを吹き飛ばすために皆で怪談話でもしようと最初に言い出したのは誰だったのだろう。
俺を含む東方司令部のとある五人が深夜の謎のテンションに飲まれていた。
「おっし、始めるぞー」
灰色の雲が空に浮かび月も星も見えない夜、大部屋の電気を全部消すと向かいに誰が座っているかよく分からないほど真っ暗になった。
俺とブレダは胡座をかき、中尉とファルマンとフュリーは体育座りをして、部屋の隅で五人で円を描くようにして床に座り込んだ。
「じゃあ、最初はフュリーで次はファルマン。そんでハボ、俺、締めはホークアイ中尉という順番で」
懐中電灯を顎の下に持ってきて顔を照らし、にんまりとブレダが笑うとすでにフュリーの奴が怯えている。
「おいおい、一番手、しっかり頼むぞ」
ブレダが懐中電灯の明かりの中でわざと笑みを深める。
「ブ、ブレダ少尉~…脅かさないでくださいよ~」
「フュリー曹長は怖がりですが、意外とこの手の話が得意そうに見えますね」
「それって褒めてるのかどうか分からないわね」
「褒めたつもりですが…」
「中尉の話は期待できそうだなあ。背筋が冷たくなるようなやつ、お願いしますね」
「ハボック少尉、あまり期待しないで。体験談くらいしか話せないわ」
「たっ、た、体験談ですかっ!?」
「おいフュリー、まだ気絶するなよ!」
「フィクションじゃないとは中尉らしい」
「もう、ファルマン准尉、それって褒めてるの?」
「うわー、おっかねーこと聞いちまった…」
ホークアイ中尉の不意打ちの恐ろしい発言で四人が取り乱す中、その会話を打ち切ったのも中尉だった。
「ねえ、ハボック少尉。少しだけ右に寄れる?なんだか狭くて」
「あー、すんません。ブレダが無駄に場所を取るもんで」
「おい、俺のせいにするな」
「…何となく最初に座った時より窮屈というか人口密度が高い気がします」
「そうですね…隣の人の腕が当たりますもんね」
「おい、ブレダ痩せろよ」
「何でそうなる。…俺は曹長の腕にぶつかってないぞ」
「…自分もです、フュリー曹長」
「…ええっ!?でも僕って、ブレダ少尉とファルマン准尉の間に座りましたよね!?」
「…なんだよこの嫌な感じ…」
「電気つける?」
「中尉、電気じゃなくて火ならこの場でつけれるぞ」
「もー、危ないからこんな人が密着したとこで火ぃ点けんでくださいよ」
「ハボック、お前の頭を蝋燭代わりにしてやるから大丈夫だ」
「…ねえ、大佐のこと呼んだのって誰?」
「え?僕じゃないですよ」
「私でもないです。ハボック少尉ですか?」
「いいや、違う…。というか、なあ、ブレダ」
「ああ、ハボック。大佐はこういうのに興味なさそうだから呼ばなくていいって結論になったはずだよなあ…」
ブレダが懐中電灯で恐る恐る声のした方を照らす。
懐中電灯の明かりが、招かれざる客が体育座りをしている姿を照らし出し、大部屋に五人の叫び声が響いた。


「どさくさに紛れて座敷童って叫んだ奴は誰だ。燃やすぞ」
気配を消して大部屋に入り込み、フュリーとファルマンの間にちゃっかりと座って、部下達を恐怖のどん底に陥れた張本人は腕を組み不満を言う。
「こんな楽しそうなことに私を誘わないなんて、お前らには失望したぞ!」
おまけに不機嫌らしいが、部下達は誰一人相手にしていない。
「ああ、何てことだ…フュリーが気絶しちまった…」
「頭を打ち付けなかったのが不幸中の幸いね。誰か仮眠室まで運んでくれる?」
「あ、じゃあ俺が運びますよ」
「不本意な形でひんやりとしてしまいましたね…」
「ファルマン、お前失礼だぞ!あと中尉達も少しは上官に構え!寂しいじゃないか!」
寂しがり屋の座敷童、ではなくて、上官の乱入でひとつも怪談を話さぬままお開きになったものの、忘れられない一夜になった。








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