「それで?なんでお前が娼館に行く必要性があったんだ」
 説明しろと腕を組んで睨みつけてくる上官に、レウはうっと呻いた。
「情報科から頼まれてだな……別になにかしたわけじゃない」
「へえ~、俺の方には支援要請なんてきてないけどな」
 それもなく勝手に隊の奴を連れていったってことかと口の片端を吊り上げ、不敵な笑みを向けるエディスに言葉をなくす。どうしてこの人はこんなに怒っているのかと珍しくたじろいだレウに「聞いてるのか」と追撃がくる。
 エディスが怒ることは少ない。どちらかといえば自分の方が怒っていることが多い。
(だからその一回が面倒なんだけどな)
 部下の話をしっかり聞いて、調査してから叱責や落としどころを見つける為に話をする。それくらいだ。理不尽に怒鳴ったり殴ったり、頭ごなしに言ってくることがないから隊内の雰囲気はいい。
 シトラス・ブラッドがいた時期は例外として。あれは異常だった。今振り返っても、なにかに憑りつかれているようだったという感想しか出てこないし、なんなら思い出したくもない。
 考え事をしながら理路整然と話す上官を見下ろす。
(これ、愛人が娼館に行ったから怒ったとかじゃなさそうだな)
 エディスが怒っているポイントを整頓すると、以下だ。
 ①成人しているからといって、本人と上官の承諾なしに娼館に連れていくのは倫理に反している
 ②任務内容を伝えるのが娼館の前で、断れば女性兵士が任務に当たるしかないという状況
 ③囮任務なのに詳細が伝えられず、寄ってたかってきた娼婦に揉みくちゃにされた
 ④上四つを帰ってきてすぐに報告しなかった
 ーーどう考えても上官モードで話されている……よな、これは。疲れたのに”上官”の相手はしてられるかと口を開こうとしたレウは、そのまま口を閉じる。
 眉を吊り上げ、こちらに指を差しながら注意をしてくるエディス。怒っていても綺麗な顔だなと、思わず見とれてしまう。
 一週間前には乾燥して切れていた唇は、毎日ちゃんと保湿剤を塗ってやっているからか艶やかだ。なにより、青い瞳が輝くように鮮やかな色彩になる。戦闘時、目で追ってしまいそうになる表情を目の当たりにして呆けてしまう。
「おい、俺の話聞いて……そんな疲れたのか」
 伸ばてきた手に目の下を擦られる。ごめんなと眉を下げるエディスの目の色が落ち着いていってしまう。
「……いや、綺麗な目ぇしてんな。と……思って、見てた」
 話は聞いてたと言うレウに、エディスがはあ!? と叫ぶ。動揺を隠せない上官は「綺麗って」と言って自分の頬に手を触れる。言われ慣れているどころか耳が腐るほど聞いた言葉だろうに、まだ頬を赤くできるのかと感心してしまう。
「今っ、仕事の話してんだろ!」
 俺は怒ってるんだぞ!? と睨んでくるエディスを腕で囲い込むと、口端が緩んでしまう。これだけ隙を見せるのなら、今までのはただの”上官”としての話だけではなかったのだ。
「分かってる、反省もしてる」
「それが反省してる奴の態度かって言ってんだ」
 顔を赤くして出ようともがくフリをするエディスが「こら、誤魔化すな!」と叫ぶが、口づけると怒りながらも胸にしがみついてくる。小さな頭を撫でながら待つと、背に腕が回ってきた。
「ちょっとは嫉妬してくれたのか?」
「……心配はした」
 怖かったかと訊かれ、言いよどむ。遊んでいた過去があるので怖いどころか早く帰りたい、だるい、匂いがキツイと思って酒を呷っていたのだがーーこの人にとって、あの状況を想定して出てくる感想は「怖い」なのだ。奴隷として搾取されていた時代になにがあったのか、未だ聞くことができていない。
「心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
 素直に口にすると、エディスは首を振る。お前が謝ることなんてと言うので、まだ遠慮してるなと半眼になりそうになった。
「じゃあ慰めてくれよ。上官としてじゃなくてーー主人として」
 そう言うと、余計に顔を赤くして。でも腕を首に回してきて踵を上げる。目を閉じた顔を近づけてくるので背を曲げて迎え入れた。

【END】




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※ただいまの拍手お礼は、SS2本(レウ×エディス2本)です



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