拍手ありがとうございました！
お礼になるかはわかりませんが、ぜろろいとれいゆりの小話を置いていきます。

　
ゼロロイ（あなたの手で作り変えて）

　勢いよく髪を後ろに引っ張られて、椅子の背中にしたたかに頭をぶつけた。
あまりにも強く引っ張られたもんだから、髪の二三本は抜けてそうだ。
「ちょ、ロイド痛いって！」
「ゼロスが頼むっていうから髪結ってやるのに、ふらふらするから悪いんだろ」
ズキズキと痛む後頭部を押さえて、俺の後ろで櫛を握っているであろうロイドに苦情を言うと、悪びれもしない声が返ってきた。たしかに髪を結ってくれと頼んだのは俺だが、間違っても髪を抜いてくれと頼んだ覚えはない。髪を梳かれているうちに少しだけうとうとして舟をこいでいただけじゃないか。
「それにしたっていまのは痛かった。俺様のきれーな髪が抜けたらどうしてくれるんだよ！」
「髪に四本五本でケチケチするなよ」
「そういう問題じゃないだろ」
妙にリアルな数字に、やっぱり髪が抜けたのかと確信してしまう。痛みを少しでも和らげられるようにと頭を撫でていた手を乱暴に振り払われ、またロイドが髪を梳き始めた。普段の乱雑さからは考えられないように丁寧に通される櫛に、さっき髪を遠慮なしに引っ張ったのと同一人物なのかと疑いたくなる。
「これからさらに暑くなるんだから、ばっさり切ったらどうだ」
「ハニー、俺は髪を結ってくれって頼んだんだからな。間違っても切るんじゃねえぞ」
「分かってるけどさあ、いちいち面倒だろ。切った方が楽だと思うんだけどなあ」
グローブを外したロイドの手が、まるで壊れ物でも触るかのように髪を梳いていき、絡まった毛先を優しく解いていく。が、その反面では髪を切れと提案してくるのだ。もしかしたら梳き終わったあとに、ついでだからとハサミを取り出してくるかもしれないから油断ならない。
「じゃあ、もしも切ったら、俺の髪でなんか作ってくれる？」
「髪で？」
「そう」
髪を一房引き寄せて手櫛で梳くと、さらさらと指の間を滑り落ちていった。ロイドが丁寧に梳いてくれたおかげだろうか。この長く赤い髪を切ったとして、俺とともに時を刻んできた体の一部を捨ててしまうのは少しだけ惜しい。いますぐに切るわけでもないのに、そう思ってしまった。
「たとえば？」
「うーん、なんだろうな。こういうのはロイドくんの方が得意だろ」
「そうは言われても、髪か、髪ね。何が作れるんだろ」
どうせなら、俺の一部をロイドの手で作り変えて欲しい。我ながら気持ち悪い願望だ。こんなことうんうんと頭を悩ませているロイドには伝えられそうにない。
「なんか思いつたか？」
「うーん、とりあえず」
「とりあえず？」
「とりあえず、ポニーテールでいいか？」
「おい、デザインどうなったんだよ」
櫛を俺の膝の上に投げ捨てると、さっきまでの丁寧さが嘘のようにぐいぐいと髪を引っ張ってひとまとめにしていく。
「いまは髪を結うんだろ。」
「そうか、じゃあ、楽しみにしてる」
ロイドは俺の返事に満足そうに笑うと、髪を高い位置で結い上げてくれた。首にまとわり付いていた髪の毛がなくなっただけで、たいぶん涼しく感じる。
まだ髪を切る予定はない。だけど、いつか髪を切った日にロイドの手によって俺が生まれ変われるというのなら、そのときを待ちどうしく思ってしまう自分も仕方ないのかもしれない。

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レイユリ

ああああ、あああ、やばい、やばいよ俺様……。
ついに、ついにやってしまった。ねえどうしてあのときはっきりと男に興味はないって突き放せなかったの。もうこれってリーチかかってるよね。明らかに期待させちゃってるよね。後もう少し押してくれたらおまえさんになびきそうだぜ、みたいな？
泣いていいかな。泣いていいとこだよね。

宿屋の大浴場で押し倒されそうになってから、俺はユーリと距離をとっていたし、ユーリもあんな実力行使を見せることもなかった。というよりも、自分が避けられているのを感じ取っていたのかもしれない。普段はなんだかんだで二人で話したり、食事のときも席が隣だったりするんだが、そういった二人の時間が目に見えて減っていたから。あ、二人の時間とか恋人同士とかそういう意味じゃないから、間違っても。
それが、昨日っていうか今日になるのか。まるで、いままでの俺たちの距離のとり方をぶち壊すように、ユーリが攻めの姿勢できたんだよ。
バウルでの長距離の移動中で、途中で街によって宿を取るのも面倒だったから、そのまま船室で一夜を過ごすことにしたんだ。カロルくんや嬢ちゃんはすぐに寝ちゃって、リタっちも分厚い本と一緒に魔導器の世界へと旅立ってしまっていた。ジュディスちゃんもユーリとお話してたから、俺は夜風にあたろうと思って甲板にでてぼうっと夜の海を眺めていたんだ。
もう夜も遅かったし、みんな俺のことなんて置いて寝ちゃうだろうなって少しだけ寂しい気分になってたら、それを打ち払うようにユーリが甲板に出てきて俺の名前を呼んだ。月と星の光の下でぼんやりとしか姿を確認できなかったユーリに、軽い気持ちで返事をしたのが間違いだったんだろうか。いや、仲間なのに無視するわけにもいかないし、久しぶりにユーリとゆっくり話できたらいいなと思って、俺も話しかけたはずだった。じゃあ、どこから分岐点を間違ったんだろうか。
あれか、フラグをたて間違えたのか？　むしろクラッシュしちゃったとか？　だって、女の子もたくさんいるパーティーの中で男同士で色恋沙汰とか、化学変異しちゃってるよね。いろいろと……！
なのに、そんなこと頭の中からスコンと抜けていた俺は、青年もこっちにきなさいよって、自らを断崖絶壁に追い込んでたんだ。
何を話したのかなんてよく覚えてない。ただ、普段よりも穏やかな声色で話していたユーリは、薄暗い中でじっと目を凝らして俺を見つめ瞬きをした。まるで、すぐ近くにいるはずの俺を、見失うことのないようにとでも言いたげに。いつも剣を握って魔物を屠り、カロルたちの兄貴分として先頭きって突き進んでいくユーリとは違うその姿に、よくわからない焦燥のようなものを感じた。本当に、突然襲ってきたのよ。それを後押しするみたいに、ユーリが小さな声で言ったんだ、オレやっぱりあんたのこと好きだって。自分の中を占めていた感傷も吹っ飛んで、いつも通り固まってしまった俺に、ユーリは寂しそうに笑いながら、あんたにとっては迷惑なのかもしれないけどなと呟いた。
で、気づいたらいってたんだよ、おまえさんのこと嫌いなわけじゃないって……！
どうしてそんなこと言ったの、俺……！　嫌いなわけじゃないって、あれですか？　ツンデレですか？
あの雰囲気でそんなこといったら、ある意味エンディング決まっちゃったようなもんでしょうに。あれもう告白しちゃうの、みたいな。
お互いのためにも、これ以上期待をさせないようにわかりやすく、恋愛的な意味で好きにはなれないって言うべきだったんだ。なのに、あのユーリの表情とか声とか雰囲気に流されて、そんな言葉を発することもできずに、更に雰囲気に流されてユーリの黒髪とかに手を伸ばしちゃったんだよ俺様……。誰か、あのときの俺を殴ってくれ。グーでいいから。本当に、三発くらい殴っていいから。
そのあとすぐにジュディスちゃんが甲板に出てこなかったらキスくらい、いやなんでもない。危ないところで俺を正気に戻してくれたジュディスちゃんは、救いの女神だ。が、断崖絶壁の危機的状況から抜け出してほっと一安心していた俺とは対照的に、ユーリが悔しそうに甲板を蹴りながら、ジュディのやつ邪魔しやがってとか言ってたのをおっさん見ちゃったよ。
さっきまでの弱気なユーリはどこへ消えちゃったの。まさか、お芝居だったとか言わないよね。そんなこといわれたら、おっさん人間不信になるからやめて！
もしかしたら、このまま俺のこと好きとかいってたのもなかったことになるのかな、とかいう俺の甘い夢は、本当に夢でしかありませんでした。かけらも残らないくらいに粉々に消えてなくなってしまいました。
船室に戻るときにすれ違いざまに呟かれた、おじさまももうあきらめたらどうかしら、というジュディスちゃんの言葉が忘れられない。なんでそれを俺に言うの。ユーリじゃなくて俺に！　そして君はどこまで知ってるの！？
俺があきらめたら大変なことになるよね？　カップル成立だよね？
誰かユーリに同じ言葉を言ってくれる勇者はいないんだろうか。いるわけ、ないよね。ごめん、おっさん夢見すぎた。
でも、とっさに嫌いじゃないって言葉がでちゃうなんて、俺もしかして。いや、嘘だ。そんなはずは。できれば胸は大きいほうがいいっていうのが、若いころから心の奥底に秘めていた座右の銘だったはずだ……！
そうだよね。うん。そ、そうにきまってるよね！そうだと、言ってくれ。もうほんと、誰でもいいから！