向こう側





「ザックスはあの街行ったことあるんだよな?」

高い塀と頑丈そうな扉に守られた街の入り口を指差し、クラウドが尋ねる。
そういえば休日になっても一人だとなかなか外に出ることはなくて、
行ったことのある場所といえば、ザックスに連れて行ってもらったところくらいで。

たまたま任務帰りに通りがかったところで、クラウドがそうザックスに尋ねた先は六番街だった。

「ん?まぁあるけど、…なんで?」

「友達が今度連れてってやるってい―「ダメです!!!」

「…は?」

ザックスが少し怪訝そうな、伺うような視線を送ってくるのを不思議に思いながら、
なぜかと聞かれたので答えれば、全部言う前にさえぎられた。
しかも全力でダメとか言われた。

「なんでザックスにそんなこと言われなきゃいけないんだよ」

「ダメったらダメ!あんなところいっちゃイケマセン!」

「………意味わかんないし」

なにかあったのか、と思えるほどに断固としてダメだと喚くザックスを半眼で見据えてため息をつく。
なんだというんだ、アンタは母か。

「どうでもいいけど、俺行ってくるからな」

「…クラウド、あそこになにがあるのか知ってて行くのか?」

喚いていたかと思えば、真顔になって今度はそんなことを聞いてくる。
さっきそれを聞こうとして全部言う前に遮られたわけで。

だからもちろんあの街になにがあるのかはっきりとは知らない。
ただ、友人が『厳ついお姉さんその他いろいろで面白いトコロ』と言っていた。
クラウドが知っているのはそれだけだ。
が、なんとなくこの流れで「知らない」と言うことに抵抗が生まれて、

「…そうだよ」

半分嘘が混じったせいか、思わず目をそらす。
…違うもん、嘘じゃないもんちょっとは知ってるもん。

それでもいつもなら大体バレるのだが、今回はザックスが冷静じゃなかったらしい。

「!!!」

クラウドのちいさな嘘に、絵に描いたように衝撃を受けるザックスがそこにいた。

「もうオレのことキライになった…?やっぱり女の子がいいの…?」

クラウドの両肩をつかんで、捨てられた子犬のような目でそんなことを言ってくる。
なんでそうなるんだ。
どっちかって言ったら、それは女の子大好きなザックスに対して時々感じる俺の不安じゃないですか。


「…なんでそうなるんだよ」

どうにも先ほどから極端というか大げさなザックスの思考に、思わずため息交じりで。


「だって、女の子がいいからそこに行くんだろ?」

「そこってなんだよ」

「連れと一緒に行くなんて、蜂蜜の館しか選択肢ねーじゃんかー」

「なにそれ、俺は厳ついオカマって…」

「………え?」

「………」

別に知っているわけじゃないから、本当かどうかなんてわからない。
ただ、ザックスの想像しているものはクラウドの思っているものとは違うようで。
ザックスにとって、六番街で連れと行く店といったら女の子のいる店らしくて。

じ…、と無表情でザックスを見つめる。
揺らぐことのないクラウドの視線を受け、ザックスはたじろいだ。

「い…いや、厳ついオカマだって、心はりっぱな女の子で……」


そして苦し紛れに出したその返しは、

「……蜂蜜の館、ねぇ」

「…うっ」

クラウドのつぶやきに一蹴される。


本当は間違ってはいない、蜂蜜の館には厳ついお姉さんだっているのだ。
ただ基本女の子目当てなザックスの中で、その認識があまりに薄いだけで。
結局は厳ついお姉さんがいようが、そちらに用はないのでザックスにとっては女の子のいる店になるわけだが。


「ザックスはよく行くんだ?」

「………」

いつにも増してキレイな笑顔でニコニコと聞かれて、内心やっちまった感に苛まれるザックスはもう何も言えなかった。


「ねぇ、ザックス」

「…ナンデショウ?」

かなりぎこちない笑顔でクラウドに応える。

「俺、行ってきてもいいよね?」

「………お、おぅ…」

それ以外、今のこのクラウドになんと応えればいいのだろう。
いやこれ以上の正解はないはずだ。


「うん。それじゃあザックスのおすすめの蜂蜜の館も見てくるね」

「!!!!」


楽しみだなー、なんて最後にとどめを刺しつつ六番街の入り口に背を向けて歩き出したクラウドは、
わかりやすくズーンと項垂れるザックスをちらっと振り返って。

普段はザックスに振り回されてばかりだけど、
たまにはこうしてやり返すことができるようになっただけ成長したなと、ほくそ笑んだ。










20のお題からお借りしました。
http://aoiyoru.bufsiz.jp/20odai.htm

たまには、なんていいながらうちのクラウドさん基本強気です(笑)

ぱちぱちありがとうございます!
エサをありがとうございます!

   2011/11/17





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