誰かが、呼んでいた。

(……バリ、……ヒバリッ)

けたたましい高音。そんな声で呼ぶのは、あの黄色くてふわふわの鳥くらいだ。けれど、あの鳥は
草壁哲也のトコロに残して来た筈だ、とトロトロの思考で思い至る。

(ヒバリッ、起きてっ)

だったら、この声は誰だ。
居るとしたら、雲雀を起こすのであれば、甘さを多分に含んだ低く優しい声音でなければならない。
こんな甲高く、キンキンと切羽詰まった声は、知らない。

「ヒバリッ、起きてくれよっ」

 肩を掴まれ、揺さぶられた。イイ度胸だ。どこの誰だか知らないが、タダじゃ済まさない。
 だいたい、何の権利があって此処に居るのか。思考を回復し始めた頭で雲雀は思った。此処に居て
良い人間は1人だけ。男も女も容赦はしない。
 カッと目を見開き、雲雀は勢いよく身体を起こした。

「え?わっ!?」
「一体誰?僕の眠りを妨げるなんて……咬み」
「殺したいのは、分かるっ、けど、ちょっと待ってくれ!!」
「問答無用」

 焦った声をすっぱり切り捨て、雲雀はベットを飛び降りトンファーを装着した。

「待て待て!落ちつけ!とにかく俺を見てくれ!」
「……俺?キミは女だよね」

 自分で言っておいて、カッとなった。まだすっきりとしてなかった頭がクリアになる。
 これは、裏切りじゃないのか。明らかにそうだろう。
 でも見ろと言うなら、見てやろうじゃないか。咬み殺すのは後でも出来るさ。山本武についても、処分
を下すのはそれからでも遅くない。
 ふぅ、と息を吐いて、雲雀は出来るだけ無表情になるよう努めて、相手をみやった。

 必死に突き出された両手が目に入った。次いで細くて長い指を辿る。今度は手首から腕へ。妙にダ
ブダブの濃いグレーのスウェットには見覚えがある。それを追って肩口へ。やはり大きいのか、華奢な
肩が見え隠れしている。
 そこで、キレた。

「……お仕置きが必要だね」
「へ?」

 ぼそり、と呟かれた声に間抜けな声が返った。が。我に返るのも早かった。

「違う違う!俺浮気なんてしてねぇよ!!」
「じゃあ、キミはなに!?なんで山本の服なんか来て此処にいるの!?」
「それは俺が山本武だからだよ!!」

 女の声がそう叫んだ後、寝室は一気に静まり返った。



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