<初キス>

オレは…冬獅郎と付き合ってるんだと思う…きっと…多分……。
なんかもう夢中で告白した時、
『冬獅郎…オレ、お前の事好きなんだけど』
『……あぁ…』
『お前と付き合ってもいいか?』
『……別に……いいけど…』
『じゃ、じゃあ…オレ達恋人って事でいいんだよな?』
『……そうじゃねーの?』

というやり取りがあった。
実は同じ布団で寝ながらも、二人背中合わせで寝ていたし、部屋は真っ暗で、布団にくるまった冬獅郎はもちろん顔は見えないし、声もくぐもっていて小さかったが。
それからは、一緒にいる事も多くなったが、触ると怒るし、手なんて握らせてもらえない。
冗談めかして、手を握ろうとすると、小さくて俊敏な冬獅郎はすぐ逃げるし、しつこくしようものなら蹴りが飛んでくる。
頭をくしゃりと撫でただけでも、あごに拳が飛んでくる。
二人きりでいる時間なんてそうそうないし、たとえ二人になれたとしても、忙しい冬獅郎はすぐに呼び出されたり、オレがルキアに呼ばれたり……。
そんな悶々とした日々が続いていた。
ある日、オレの部屋に当たり前のように屯す死神連中に、奇跡的な事にそれぞれ用事が入り、気がつくとオレの目の前には愛しい冬獅郎が一人。
コレはチャンスだ。
今日こそ、その可愛らしくて小さな手くらい…いや…せめてふかふかの頬に触れるくらいは……。

『なぁ…冬獅郎?』
『…なんだよ』
『あのさ、オレ、お前の事本当に好きなんだ。だから、キスしたいんだけど』
『…!』

直球。
ダメ元で言っていることなので、少し高いランクから下げて行く作戦だ。
コレで殴られたら、勢いで手を握ってしまえと思い、冬獅郎の蹴りか拳が飛んで来るのを目をつぶって待った。
『……冬獅郎?』

しかし、たっぷり30秒ほど待ったが、衝撃は襲ってこなかった。
おそるおそる目を開けると、大きな目を更に大きく見開いた冬獅郎が、固まっていた。
目が泳いでいる。
『ちょ…冬獅郎?』

名前を呼ぶと、はっとしたように目の焦点を合わせる事のできた冬獅郎が、今度はリンゴみたいに真っ赤になってしまった。
耳まで真っ赤で、頭からは湯気が出そうだ。
普段のクールな、毅然とした冬獅郎からは想像出来ないほど動揺している。
『ば…ばっ……ば……』

『馬鹿』といいたいのだろうが、言葉にならず、口をぱくぱくさせている。
そうか…こいつはこういう事にはもの凄く弱いんだな……。
こんな、普段滅多に見れない冬獅郎の姿を見れただけでも凄い事だが、オレも男だ。
このまま一気に距離を近づけたい。
『冬獅郎…?オレとキスすんの嫌?』

オレの中のありったけの優しさを詰め込んだ笑顔と声で問いかける。
すると、一瞬頬が更に赤く染まったが、とうとう俯いてしまった。
『しても…いい?』

下を向いたままの冬獅郎は、ぶるぶる震えながらもなんとか足を踏ん張り、ここから逃げ出さずにはいるようだ。
それを肯定と受け取り、一気に冬獅郎に近づく。
びくっと肩をふるわせた冬獅郎だったが、オレがその小さな肩に手を乗せ、もう片方の手で腰を抱き寄せるのにも抵抗はしなかった。
だが、冬獅郎の形の良い顎に手をかけ、上を向かせようとすると、ものすごい勢いで抗われた。
オレの胸に手を突っ張り、ますます下を向いてしまう。
何度やってもだめだった。
仕方が無いので、オレは俯いたままの冬獅郎の顔を見れるように膝立ちをして、更に腰を曲げかかんだ。
オレの動きに気づいた冬獅郎は、熟しすぎたトマトみたいな顔をして、ぎゅっと目をつぶっている。
握りしめた手は指が白くなっていて、肩が傍目に分かるほど震えている。
とんでもなくかわいい。
『冬獅郎…』
『……っ』

冬獅郎の息をのむ声が聞こえる。
固く握りしめられた手を引き寄せ、もう一度顔を覗き込む。
その閉じられた目には涙が浮かんでいて、あまりの初々しさにめまいがする。
いつまでも見ていたい可愛らしい顔だったが、いつ冬獅郎が我に返って逃げ出してしまうかもわからない。
『冬獅郎…』

もう一度名前を呼びながら、冬獅郎の頭をそっと引き寄せ、小さくて柔らかそうな唇に、本当に軽い触れるだけのキスをした。
次の瞬間、オレの体に凄い衝撃があった。
冬獅郎が全身でオレの体を突き飛ばしたのだ。
『…ってぇ』

床を転がったオレは、ベッドの角に頭をぶつけてしまった。
頭を擦りながら起き上がり目を開けると、オレを突き飛ばしたままの格好の冬獅郎。
『い…っ…いちご…』

はっとして手を降ろした冬獅郎だったが、なんとそのままその場にへたりこんでしまった。
腰が抜けてしまったのだろうか。
今度は顔が真っ青になってしまっていた。
『と…冬獅郎!大丈夫か?』

オレは頭を打ったことも忘れ、動けないでいる冬獅郎の元に駆け寄ると肩に手を回して自分の方へと引き寄せた。
顔を近づけて見ると、冬獅郎はまたすぐに真っ赤にもどってしまった。
そして、オレの顔を凝視している瞳から、ぽろぽろ涙が流れてきた。
『うわわ!どうした?な…泣くなよ!……そんなに嫌だったか…?』
『い…いち…いち……』

オレは何かしてしまっただろうか……いや、唇は奪ったが…。
唇の感触を味わう余裕もないキス。
それでも、この子には相当な衝撃だったようで、まだガタガタと震えている。
これはどうしたもんか…とオレが困り果て、とりあえず謝ろうかと思い口を開きかけた瞬間。
なんと、冬獅郎がオレの胸に飛び込んできた。
しかも、オレの服をぎゅーっと握りしめ、顔を押し付けてくる。
『冬獅郎……』
『お…オレだって…お前……いち…いちごと…き……き…キスしたかった……け…ど…はずか…しくて……』

蚊の鳴くような声で、とんでもなく可愛い事を言われた。
…この言葉だけで、オレは死んでもいい気がした。
そんな愛しい恋人の頭を優しく撫でながら、もう一度しっかり伝えたかった言葉を紡ぐ。
『好きだよ…冬獅郎…』

オレがもう一度、改めて告白すると、弾かれたように顔を上げた冬獅郎と目が合った。
オレは、びっくりしたような、今にもまた泣き出してしまいそうな顔の冬獅郎の唇に、そっと己の唇を重ねた。
今度はさっきより長く。
再び離れ、冬獅郎の顔を見た時、その顔が微笑んでいたように見えたのはオレの気のせいだろうか…?



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