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満員電車のざわめき 「う、わっ!」 「!」 満員電車の中で人に押され、体制を崩した古市を片腕で受け止める。 男鹿に比べれば随分細い体はさっきから何度も足元をグラつかせていた。 「ったく、何やってんだよお前」 「うっせーな、掴むとこねーんだから仕方ねぇだろ」 大体電車を一本乗り遅れてこんな満員電車に乗るハメになったのだって元はと言えば男鹿が寝坊なんかするからだ。 そりゃ女の子にギュウギュウ押されるなら別に文句も出ないしむしろ大歓迎だ。 けど実際押してくるのはむさ苦しい野郎ばっか。 「あー………最悪」 「別にちょっとの辛抱じゃねーか」 「そのちょっとの辛抱が出来ねぇ奴に言われたかねーよ」 「んだと?古市後で覚えてろよ」 「もう忘れたー………っ、!」 曲がった時の衝撃で男鹿の方へ体が倒れるが、しっかりと抱き止められる。 古市は慌てて男鹿に抱きつくような体制から一刻も早く離れようと狭い場所でもがいた。 必死な古市の肩を掴み、男鹿は自分が凭れていたドアの入り口にまるで囲うように片腕を付いてその細い体を支えた。 「これで大丈夫だろ」 「………大丈夫だけど……お前さぁ…………」 「ん?」 「いや、うん。サンキュ」 「おう」 古市は今の状態に不本意そうに眉を寄せているが、照れくさいのかその顔はほんのりと赤い。 それを少し高い目線から見ていた男鹿は、その顔の近さによく分からない妙な感覚が胸を掠めた。 いつもとそう変わらない距離の筈なのに、ざわざわとして落ち着かない。 「お、が」 「何だよ」 「顔近い………」 「せめーんだから仕方ねぇだろ」 「それでも……………近ぇ、よ」 俯いた古市の動作に合わせて揺れる前髪が何故かいつもよりキラキラしていて、また胸の内を何かが掠めた。 手を伸ばして触れたいが片手は鞄を、もう一方の腕は古市を支えているため動くことが出来ない。 男鹿は何を思ったか、完全に俯いてしまい無防備に晒されている銀髪に顔を寄せる。 柔らかくて同じ男とは思えないような良い匂いを発する髪に唇を触れさせると直ぐに離れた。 「………男鹿?今何かした?」 「知らねーよ」 「……ふーん………」 そう素っ気なく答えた古市の耳は赤みが差していて、男鹿は無意識に口元が緩んだ。 たまには満員電車も悪くないかもしれない、と。 拍手ありがとうございました!! |
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