Thanks For Clap!!

Hikaru Zaizen




「財前やけど。今、ええ?」

夕方より少し前。かかってきた電話の相手はこっそり期待をして待っていた〈想い人〉。ちょうど1ヶ月前を思い出して、勝手に心臓がドクドクと踊り出すのがわかった。

「うわ、今ニヤニヤしとるやろ。声ににじみ出とるわぁ」
「……うっさいわ、あほ」

機械越しとはいえ耳元で聞こえる財前の――自分の為だけの――低音に、にやけるなという方が無理な話で。それを揶揄いながら指摘されたことが恥ずかしくて子供じみた返答が口をついて、赤くなった顔を隠すように片手で覆った。

「予告しといた通り〈お返し〉用意したで」

滅多に聞くことのできないほど優しいトーンで告げられたその台詞に心がときめきに跳ねた。それと同時にぷつりと通話が切れた音がした。
驚いて画面を見ても「通話終了」の4文字が並ぶだけで、慌ててかけ直そうと操作をしようとした時。ぽこん、とメッセージアプリの着信音が手の中で鳴った。

『学校の裏門前の公園で待っとる』

たった1行の簡素な文なのに、泣きたいような、にやけてしまうような不思議な気持ちでいっぱいになる。最低限の身なりを整えてから私は駆け出した。
待ち合わせ場所の公園に着くと既に財前はそこにいた。
今日が休日ということもあり、制服姿ではなく私服だった。私服姿を見るのも見せるのも初めてではないけど、普段とは違う緊張感が体に走った。

「……財前。ごめん、待った?」
「別に。こっちが呼び出したんやし。……これ先月の〈お返し〉な」

ん、と差し出された袋には1か月前、私がリクエストしたものがきちんと入っているはずだ。そう思うと自然と顔が緩んでいく。それは目の前にいる彼にもわかったのだろう、「自分、さっきからニヤニヤしすぎや」と小突かれた。

「うっ……。だって、……嬉しいんやもん。ありがとう」

小突かれて痛い額を押さえるように、赤くなった顔を隠すように両手を顔の前に持っていきながら小さく呟いた本音とお礼。それが財前に届いたかのはわからなかったが「……ほな、また週明け学校でな」と妙に早口で踵を返す彼の手を慌てて掴んだ。

「……なん、どないしたん、」
「なぁ、財前。……これ……〈期待〉してもええの……?」

怪訝そうな財前の表情に感情も体も縮こまりそうになったが、どうしても聞いておきたかった。はぁ、と吐き出された溜息に思わず俯いた。

「どう考えても本命中の本命に決まっとるやろ」

その言葉に思わずその場にへたり込んでしまった私に「ほんまアホやなぁ、自分」とやたらと甘い声で、同じ目線にかがんで頭を撫でてくれる財前に私の涙腺は決壊するしかなかった。




蝶々結び

(小指に結ばれた糸は、)





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