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↓は幸村女体化のダテサナSSになりますので、女体化が苦手な方はご注意ください(今回はプロローグみたいなもので、不定期に連載していこうかと考えています)。


 女であるのを隠していた訳ではない。けれどおなごらしくない体型と、常に戦場で大きな槍を振り回していたから。一部の近しい者たち以外は自分を男と認識して。幸村自身も段々と男として振る舞うようになって行った。
 主君の為に力を揮うには、それは好都合なのだ、と。
 そう思っていた。
 あの時、までは。


「はぁ!」
 槍に炎を纏わせ、突き出す。刃の先に居るのは、他国の、幸村が暮らす甲斐より北に存在する奥州の主。
 蒼い陣羽織を纏ったその男、伊達政宗は幸村にとって単なる敵、ではなく。
 初めて戦場で出会い刃を重ねた際に、運命的なものを感じた程の好敵手、で。
 二人の勝負に、互いの背景は、国の情勢は関係ない。一人対一人の純粋な戦いがそこにあった。
 力はほぼ互角。しかし。
「如何された!」
 今日はどこか政宗が上の空に思えて。幸村は構えていた槍を解いた。
 政宗の方も幸村が槍を下したのを見て刀を鞘に戻す。
「……Sorry、考えなきゃなんねえ事が多くてな。しかしそれでアンタとの勝負に集中できなくなっちまうとは」
 オレも焼きが回ったな、と男は自嘲気味に笑んだ。
「まさむねどの」
 考えなければならない事、というのは彼の背負う国に関するものである可能性が高く。それは彼の国の住人ではない幸村が尋ねて良い事ではない。
 だからただ、彼の名を呼んだ。
「っと時間だ。今回も決着は持ち越し、だな。暫くは会えねえだろうが、またな真田幸村。次は今回みたいな醜態は見せねえ」
 彼の腹心、片倉小十郎が姿を現し、険しい顔でこちらを見つめている。今回、お互いは本来の目的ではなく、しかし出会ってしまえばどうしても刃を交わせずに居られず。そんな二人の心から始まった戦いだったが、本来の目的を曲げての勝負に、多くの時間が取れる筈もなかった。
 近くの木に繋いであった愛馬に跨った政宗は風のように去って行く。その背が完全に見えなくなるまで、幸村は見送った。


 幸村が武将ではなく本当は姫だと知っている者からは、年頃のおなごなのだから、と嫁に行く事を薦められた事もある。それを幸村は「自分より弱い男に嫁ぐなどごめんでござる!」と退けて来た。
 そんな中で出会ったのが政宗で。
 主君、武田信玄に「ようやく幸村の目に叶う男が現れたかの」とからかうように言われた事も有ったが。
 それに対して幸村は。
「むこうはこの幸村をおなごとしては認識しては居らぬかと。武田の方々の殆どもこの身を男だと思って居られますし」
 小さく笑みながらそう答える。
 告げた瞬間。何故か自身の胸に僅かな痛みが走った気がした。


(ご正室を……)
 奥州国主の動きは、幸村の属する甲斐の国にとっては警戒しなければならぬものでもあって。甲斐国主、武田信玄の一番槍である幸村にも、彼の動きは耳に入る機会が多く。
 信玄の言葉から、政宗が正室を選ぶ準備に入っていると知った。候補は何人か居るようだが、まだ正式にどこの姫がというのは決まっていないらしい。
(あの時の考え事とは、これであろうか)
 自分と刃を交わしながら、あの時の彼は正室の事で悩んでいたのだろうか。この身が目の前に居るのに、勝負の中で他のおなごの事を考えていたのだろうか。
(何故、それが哀しいなどと思うのだ)
 勝負を蔑ろにされて腹が立つ、なのではなく。なぜ政宗が他のおなごの事を考えていた事が哀しい、などという想いを抱くのか。
 女であることから長く離れていた幸村に。
 答えは出せなかった。



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