■on cloud nine appendix 2/3 : 中華組編
「つーまーんなーい。何で皆居ないのぉ?」
「舞浜サーバーでは夏祭りなんですって。だから皆出掛けてるのよ」
ぶーたれるメイウーにメイイェンが説明をする、その光景を見遣りながらルーシェンはお茶を淹れようと支度していた。
「俺達も自由行動は許されているじゃないか」
とはいえ特に出来ることもないので、皆でこうしてお茶を飲むことにしたのである。
「自由行動ったって、夏祭りに行くのは駄目なんでしょ? 舞浜には降りるなってシマ司令直々の命令だなんて、酷くない? 自分達だけ楽しんでさー」
メイウーの機嫌は見るからに斜めらしい。メイイェンがそっと身を寄せて双子の姉を宥める。
「それは分かるけど、でも、私達が舞浜に降りたりしたら、サーバーのシステム環境が乱れてしまうわ。そうしたら、夏祭りは台無しよ」
「それは分かるけど〜」
なおも頬を膨らませるメイウーに、ルーシェンは茶碗を差し出した。
「ほら、お茶でも飲んで」
「ありがとうルーシェン」
茶碗を受け取ったメイウーはお茶を一口含んでふぅと息をついた。そしてメイイェンが差し出した菓子盆から月餅を取って頬張る。
「夏祭りって、色々美味しいものあるんだろうなぁ」
「後でキョウに話を聞けばいいじゃないか」
ルーシェンが口にした名前に、メイウーは噛み付いた。
「そういえばキョウもちょーっと酷くない? シズノを置いて一人で夏祭りに行っちゃうなんて」
「でもさっき、シズノさんと話してるの見かけたわよ。何か渡してたようだけど」
メイイェンの言葉はフォローになっているのかどうか微妙な線だ。キョウがシズノを残して舞浜に降りているのは明白だからだ。
「キョウのことなら心配ない。彼は誠実だからな、誰に対しても、自らに課せられた運命に対しても」
そう言って、ルーシェンは窓の外に広がる雲海を見遣った。
キョウには舞浜で守りたいものがあるのだろう。それは至極当然のことだ。そしてそれに誠実であろうとするから、彼はシズノを連れずに一人で舞浜に降りた。彼にとっては毎回同じ舞浜の夏祭りに。
──そうか、そういうことか。
ふと笑みを浮かべたルーシェンを、双子の瞳が不思議そうに見つめている。
「どうしたの?」
「何でもないさ」
自分が舞浜に降りられる日が来たら、キョウは舞浜の彼女を紹介してくれるのだろうか。いや、彼女と決まった訳でもないのだけれど。でも彼が守りたいと思う人なのだから、きっと魅力的な人物であるに違いない。いや、これは既に妄想の域か。
雲の上でひとりでに広がる想像にふと頭を振って、ルーシェンはお茶を飲み干した。
そんな訳でキョウちゃん大好きっ子のルーシェンは何となく思うところがあったので、#12「目覚める者たち」での「カミナギとは?」「カミナギ・リョーコだよ!」「……あぁ、君の」という、あのリョーコのことを知らなかったような素振りにしては余裕の反応なのかなぁとも。
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