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(なんで俺がこいつの面倒みなきゃいけないんだよ?)
 堺は実に理不尽な気持ちで、ふらふらになっている世良を「おい、ここで寝るな!」と叱りとばす。
 もう、時計の針はとっくに天辺を回った。深夜の浅草の路地裏は無人だ。
 時折、遠くで酔っ払いの声が聞こえてくる。
(ていうか、一体ここはどの辺だよ?)
 練習終わりになんとなくその場にいた連中だけで飲みに行くことになった。
 FWは堺と世良だけで、ふと気がついたら隣の席を常にキープしていた世良がしたたかに酔っ払っていた。
 みんな酔いつぶれた同僚の世話などまっぴらごめんらしい。
 それは堺も同意見だ。
 だが。
「お前はいわばETUの長男ストライカーだ」と意味のわからない称号を、よりによって緑川に押し付けられた。
 普段こんなことを言う人間ではないから、多分緑川もそこそこ酔いが回っているのだと、堺は思った。
 何が悪かったのだろうか。
 浅草名物、電気ブランか?
「日本代表監督と同じ名前の酒とは調子があがりそうじゃねえか」と言い出したのは確か黒田だ。
(あれだな。きっと、赤崎の五輪代表召集がよっぽど悔しかったんだな)
 あれが導入されてから、全員一気に明るくなった。
 もちろん、丹波が調子にのるのは元からの話だ。
「よ! ETU攻撃陣の長男! お兄ちゃん! 弟の面倒よろしくねー」
「おい、丹波!」
 世良はぐずぐずと電柱に抱きついて何か話しかけている。ひどい有様だ。
(あー、そういやこいつも五輪代表呼ばれなかったこと悔しがってたもんな)
 気持ちはわからないでもないが、年齢的にとっくにアウトの堺には……やっぱり少し、キテいる感じはする。
「超好きなんスよぉ。焼き餅やいちゃ悪いっスか?堺さん!」
 いつの間に、恋愛方面に話がふられていたのだろうか?
「ほら、ご指名だ」
 緑川は真顔で堺の背中を押した。
「長男だからな。弟の面倒は責任を持ってみるんだぞ」
 ETUの正GKは、満足げな顔をして手助けしてくれそうな雰囲気を醸し出していた清川だの椿だのを引っ張ってその場から離れて行く。
「ちょっと、ドリさん……! 勘弁してくださいよ!」
 丹波は「よし、ドリさん! もう一軒!」と騒ぎながら、他の年齢下の連中は多少申し訳なさそうな表情をしながらも
「堺さん、お願いしあっス!」
「そいつ、堺さんの言うことならちゃんと聞くと思います。酔っ払ってても……多分」
「……っス」
 口々に言いながら「これは仕方ないことだから」と言う雰囲気を無理やり漂わせつつ緑川についていく。
 結局、酔っぱらった世良を、堺はなりゆきで慰めている。
「その人は、クールビューティーつんスか? すげー冷たいんス……あれ? 俺にあったかかったことあったっけかな?」
「そりゃ脈ないな」
「けど、時々すごい優しいんス……俺、きゅんとくるし。気にかけてくれてるんだなって、思うし」
「……どっちなんだ?」
「けど、時々すごい目で睨んでるんスよぉ」
「見つめてるんじゃなくて?」
「……そう思いこみたいお年頃じゃないっスか、俺。お年頃じゃないっスか。なのに、そう思えないほど憎々しげなんス……」
「諦めたらどうだ? すっぱり。今ならお前、去年よりはずっとモテんだろ?」
「俺以外の人に笑いかけてるのでさえムカつくのに、なんで他の人とつきあうんスか、俺?」
「言えばいいんじゃねえの? 相手に。年齢上だっけか?」
「……です。結構……離れてて……でもぉ! 俺の愛でそんなもん、乗り越えてみせます!」
「はいはい。わかったよ」
 電柱に抱きついて離れない世良の話に、堺はばかばかしいと思いながらもつきあっている。
 相手は世良の恋に気付いていない、絶望的な片想いらしい。
 気の毒だとは思うが、もうかれこれ一時間は同じような話の堂々巡りにつきあっている。
 いくらなんでも、もう段々面倒臭くなってきていた。
 どうせ聞いていても何一つ生産性のある結論には至らない。
「世良、ひとつ提案だがな。お前もFWだ。一度くらい攻めに転じてみるのは悪くないんじゃないのか?」
 どうも話を聞く限り「世良の恋は実りそうもないな」と堺は見切りをつけた。
「もちろん、相手の反応を見てちゃんと退くべきところは退けよ。だけど、このままじゃ埒が明かないだろ?だったら……誰か知らんが好きなら強引に押し倒せ」
 世良の目が、大きく見開かれる。
(お、決心ついたか? いいからお前は玉砕してしまえ。それで新しいのにいけばいいんじゃねえの?)
 堺なりの親心だった。
「……っス」
 そして。
 それがどれほど迂闊な忠告だったかを、唇を奪われてから堺は知った。




お題は診断メーカーより***
「深夜の路地裏」で登場人物が「なぐさめる」、「餅」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927
#rendai



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