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 いつも通りの明るいオフィス。大きな窓、洗練された調度品。ここだけ見ればどこにでもある外資系の社長室だろう。
しかしその革張りの椅子には、この場に似つかわしくない風体の男が座っていた。鬱陶しい長髪、よれた麻のジャケット。
Yシャツだけはなぜか丁寧にアイロンがけされていることはぴんとのびた襟先でわかる。広い机の上には英字と広東語の新聞と
FAX、それらの辞書が散乱している。

「失礼します」
 この部屋に三回ノックして入ってきた男は手に持っている茶器と柔らかい物腰のせいか、まるで執事のように見えた。
彼は長髪の男の秘書なので、個人に使える、という意味ではそう変わらないのだが。彼は音を立てずに主人の脇に回り、
一礼をしてこう言った。
「お茶が入りました、『エサキ』さん」
彼の言葉に男はビクっとするも、ありがとうございますといって茶を受け取った。
「ところで『エサキ』さん、先日の倉庫の件ですが……」
今度は片眉がぴくっと動く。秘書は彼が普段半笑いの表情で固まっている事を知っているため、それが可笑しくて堪らない。
 切っ掛けは、昨晩タクシーで移動中に、彼らが初めて出会った傀との麻雀の話になったことだった。
「貴方『後』堂さんなんだからもっと後ろ向きの麻雀打ってくださいよ。そんなに前に出られると迷惑なんです。」
ほんの軽口だったのでその場は流したが、帰宅して風呂場で思い出し、寝る前に思い出し、朝起きて思い出しと後堂は
結構それを引きずっていた。だから、軽く言い返したつもりだったのにこんなに反応があるなんて。
「可愛いです、『エサキ』さん」
クスクスと笑いながらそう言い残して彼は去っていった。
 ぱたんとしまった扉を眺めながら、江崎は呟く。
「後堂さん、それ、私の本名なんですよ……」
軽い嫌がらせだろうからきっと今の反応で満足して、もう、そう呼ばないだろうけど。
「本名を知られたら、私、あなたに心を握られちゃうじゃないですか」
すでに、爪は立てましたよね?
ちょっと胸がちくっとしましたもの。



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