【雪白の花】

《ちょっとした昔話・大河10歳編》

「コーチ、殺す気ですか!」

 ほとんど半泣きでその小さな弟子は言った。

 小さなその手に不釣合いな大振りの銃を持っている彼は、大きな怪我こそないものの打ち身と擦り傷だらけだった。

 プロテクターはしているものの、あちらこちらに血が滲んでいる。

 応急処置をてきぱきとする金髪の師匠を、涙の滲む目で見上げて抗議する。

「今の、おれが避けなきゃ死んでたじゃないですか! よくて大怪我ですよ!」

 すると、師匠は手を止めて日本語で答えた。

「当たり前だ。ほとんどそのつもりで攻撃したんだから」

「何で! 訓練でしょう、これ!」

「訓練だ。――お前が強くなるためのな」

「だからって……」

「訓練だからと手を抜くことは簡単だ。そして、その結果お前が実戦で死ぬことも簡単だ」

 弟子は黙ってうつむいた。

「私は、弟子なんてとらない主義だ。どうしてお前を弟子にしたかは分かるか?」

「……コーチが、あの事件の原因になるミスをしたから」

「そう。その結果、お前が戦う原因を作ってしまったからだ。戦うということは、守るために殺すことだ」

「……」

「何もかもを守れるなんて思うな。お前が向かうのは特殊な戦場だ。見捨てるために殺すより、守るために殺すことを選ばなければならない場所だ」

「……はい」

「だから、私はお前にできるだけの力をつける義務がある。殺されないために、守るために、まずは殺される状況に慣れろ。分かったか?」

「はい」

 そして、弟子は顔を上げる。

 丁度怪我の手当てが終わった師匠は、にやりと笑って言った。

「もう一度やるぞ」

「お願いします!」

 そして再び、過酷な訓練の幕が開ける。




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大河くん、フランス修行時代の小話でした。苦労はしてるけど、覚悟決めてるから苦労でもないような、でも苦労人。



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