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ビュン!
真剣の刃が空を斬り、鋭い音が鳴った。
道場には沖田以外誰もいない。
しん、と静まり返る空間に、ただ沖田の振るう剣の刃音だけが響いていた。

まだ明け六つにもならない早朝。
冬の日の出は遅いので、まだ辺りはうす暗い。
誰よりも早くから稽古をするのが沖田の日課だった。
ただ今日いつもと違う事といえば、稽古をしているのが沖田ひとりきり、という事だけ。
いつもならば、沖田よりも少しだけ早くに桜庭が稽古を始めているのだが――。

(今日は桜庭さん、寝坊したのかな…)

そう思って、沖田は先に稽古を始めた。
いつもは桜庭と竹刀で稽古をするが、ひとりだったので久し振りに真剣で形の稽古をする事にした。
やはり、真剣を握ると気持ちが引き締まる。
沖田は何度も何度も空を斬った。
もし実際に敵がいたら何人斬ったのだろうか。
いつの間にか剣の稽古に没頭し、時が過ぎて行った。

カタッ。

誰かが道場に入って来た。
人の気配がしただけで彼女の顔がまっ先に脳裏に浮かぶ。

「桜庭さん?」

それまで一心に剣を振っていた沖田がはっとなり後ろを振り返る。
何故だか分からないが、心が躍るようだった。
無意識に桜庭が来たかもしれない事を喜んだのだが、それに気付く沖田ではない。
だが、その喜びも一瞬にして打ち砕かれた。

「あ、沖田先生おはようございます」

それは桜庭ではなく、一番隊の隊士の一人だった。
沖田はあからさまにがっかりした顔をしてしまった事に気付き、慌てて笑顔を作る。

「おはようございます」
「桜庭さんをお待ちなんですか?」

このところよく朝稽古を一緒にしている二人を目にする人も少なくない。
この若い隊士もそんな二人を見かけた事があってそう思ったのだろう。

「いえ…そういうわけではないんですけど…」
「そういえば、今日は彼女を見てないですね。
 もしかしたらまだ具合が悪いのかもしれません」
「え…?」

いつもにこにこと愛想の良い沖田の顔に陰が差す。
彼女の具合が悪い、と聞いて急に胸が落ち着かなくなったのだ。

「桜庭さん、体調が良くないんですか?」
「はい。…と言っても、昨日の巡察から帰ってから少し熱っぽかった、というだけなんですけどね。
 多分軽い風邪だと……あれ?沖田先生?」

隊士の話が終わるのも待たずに、沖田はその場を立ち去っていた。




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