余りにも綺麗で…一瞬、声をかけることを忘れた。
飛影の腕は、持っていた刀をただ握り、そこから踏み出せなかった。


魔界にも冬が来る。
人間界よりも長い期間の冬は、肌を刺すようで、蔵馬は来るたび
震えていた。

だからまさか蔵馬が来るとは思わなかった…と言うのが本音で…。




「く…」
呼びそうになったが、触れてはいけない景色のようで、舞う雪の中、蔵馬は
浮かび上がるようで…。

蔵馬はコートを着て、両手を広げて雪を手に取っていた。
つらつら降る雪は蔵馬の小さな手の中に落ちて、そしてそのまま熔けた。
白いコートの蔵馬は、そのまま動かず、空を見ていた。

「蔵馬」
小さな声で呼ぶと、蔵馬はゆっくり振り返った。
「飛影、居たんだ」
本当に気づかなかったようで、蔵馬は飛影の姿に小さく笑った。
「さっきから…お前何しているんだ」
「ふふ、あのね」
冷えた両手を飛影の頬に当てると、蔵馬はふふ、と笑った。
「おい…」
「冷たい?」
見上げる蔵馬の髪にも雪は張り付いて、コートを覆っていた。
「飛影でも、冷たいと思うことあるんだ」
弾んだ声で、蔵馬は言った。
「あなたが来るかな、と思って」
飛影の両手に手を重ねると、ぎゅ、と力を入れた。
「は…?」
「もしこうやって魔界の雪に埋もれてしまったら、飛影が俺を見つけ出して
くれるかなって」
「なに言って…」
童話のようなことを言う蔵馬に、飛影は口を開くしかなかった。
「ほら…もし雪に埋もれて瀕死になったら、慌てて飛影が飛んできて
くれるかなって…」
悪戯の色が潜められて、黒い瞳が飛影を見た。
「こっちから呼ばなくても来てくれたりして…」
えへ、と言うと蔵馬は目をそらした。

それでか、と…飛影は心でため息をついた。
妖気も感じさせないくせに魔界に来ていた…こんな体が冷えるだけの季節に。
馬鹿、と言おうとした勢いも、消え去っていた。

「お前…」
呆れともなんとも言えない感覚に、飛影は蔵馬の手を握り直した。
「暖めて」
やっぱり寒い…と言うと、蔵馬は消えた…。

一瞬あと、蔵馬のからだは飛影の腕に収まっていた…。

「会いたかったよ…暖めて」
百足じゃないところで暖めて、と言うと、蔵馬は唇を重ねた。



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