「雨ふっちゃいましたね」
「そうですね。
でも、貴方と歩くとこんな天気でも楽しいですよ。
紫陽花が綺麗ですし」
「本当に綺麗ですね!
ねぇ、幸鷹さん。
紫陽花より雨の似合う花ってなんだと思います?」
「……紫陽花より雨の似合う花、ですか?」
「はい」
幸鷹さんは暫く考えて、答えた。
「思いつきません」
「そうなんですか?」
「雨露に濡れた花というのはそれはそれで風情がありますが、
泣いている様に見えて少し寂しい。
私は、それよりも雨に濡れて色の冴え冴えとした葉の方が好きですね」
「雨の日の葉っぱって何だか元気で綺麗ですよね」
「……滴る雨露が、晴れ間に輝くのも美しいと思えます」
「キラキラして、綺麗ですよね」
「……雨が上がった嬉しさが、より美しく感じさせるのかもしれませんね」
「そうかもしれません」
そういっている間に雨が弱まり、傘が要らない程度になった。
手を伸ばして確かめると、幸鷹さんは丁寧に傘を閉じる。
「傘を差して並んで歩くのもいいですが、
やはり一緒に歩くのなら貴方の温もりを近くに感じていたいのです」
そういって幸鷹さんは一瞬目を伏せて、照れたように笑う。
わたしはその横顔に見とれぼうっとしてしまったけれど、
幸鷹さんが待っていることに気付いて、傘をたたむ。
幸鷹さんは嬉しそうに微笑んで一歩距離を詰め、そっとわたしの手を握った。

青時雨 幸花ver. 2/6
背景画像:空色地図