1:飴玉を口移し



包み紙を開けるかさりという音に、ナガレはパソコンに向けていた顔を上げながら告げる。

「兄さん、俺にも一個ちょうだい」
「ん?」

今まさに、個包装の飴玉を口に放り込んだマトイは、一つ頷き大袋を振って――何の重みもないそれをひっくり返した。
最後の一個だったようだ。

「ええ、しょうがないなぁ」

ちょっと頭を休める為に甘いものを食べたかったのだが、仕方あるまい。
台所に行ったら何か他に菓子はあるだろうか、と立ち上がりかけた時。

「ナガレ、ほれ」
「ぇ」

声を上げようとした瞬間、ぺとりと唇にくっつく感触。大玉の飴を噛んでいた白い歯が、すぐに離れていく。

「そんなに舐めてねぇからセーフだろ」

有難く受け取れ、と筋トレの小休止を終えて再び腹筋を始めるマトイに、唇に飴を挟んだままナガレは完全に思考も動作も停止していた。
どうやったってアウトだよ、とか喜んでいいのか引いていいのか解らない、とか色々と言いたいことはあるのだが。
迂闊に口を開ければ折角の飴玉を零してしまうから、どうにもできない――と考えている時点で負けなのだろう。



腹を空かせた夢喰い様より、「仲良しな二人にやってほしいあまい10題」をお借りしました。
55Vより次男長男。マトイ兄さんは割と子供の時と同じノリでやった。
他のきょうだいは嫌がるけど次男だけはそこまで忌避しないところも見越してる、多分。



お言葉を賜りたく。

あと1000文字。