「な、なんだこりゃーーー!!」

清々しいはずの朝だというのに、虎徹の口からはけたたましい叫び声があふれた。







ちっちゃくなっちゃった!








朝、いつも通りにオフィスに行くと相変わらず虎徹はおらず、今日も遅刻か、と思い先に書類処理をしていた。
そろそろ一段落付くな、と時計に目を移すと針は朝来たときから一周していた。
普段遅刻をする虎徹でももうデスクにはついている時間は過ぎている。
何かあったのだろうかと首を傾げているとシュッと扉の開く音がした。
虎徹が来たのかと首を巡らすと、そこには件の人物ではなく、上司であるライズが立っていた。

「おはよう、バーナビー君」

「おはようございます、ロイズさん」

ロイズはバーナビーを確認すると挨拶をし、次いで部屋の中を見回す。
何かを探しているのだろうか。

「鏑木君は見なかったかい?今日の朝、出勤したら私の所にくるように伝えてあったんだが」

「いえ、見てませんが……まだ出勤していないようで…」

どうやら虎徹を探しに来ていたらしい。

「そう。……悪いんだけど、彼に連絡しておいてくれないかな?早く出勤するようにと。すまないが、私はこれから会議があるものでね」

「わかりました」

溜息を吐きながら言われた言葉に、バーナビーは是の言葉しか返しようがない。

「すまないね、頼んだよ」

ロイズは急いでいたのか、そう言い残し踵を返す。
その背が扉で見えなくなるとポケットから携帯を取り出し、虎徹の携帯へと電話を掛けた。

「全く、虎徹さんは」

ふう、と呆れながら受話器から耳に入る呼び出し音に耳を傾けた。
数コールすると呼び出し音が消える。

「ば、バニー!!助けてくれ!」
「…はい?」

開口一発目の言葉がそれて、ついバーナビーは間抜けな返答しか出来なかった。









あれから、虎徹から遅刻の理由を聞こうとしても、助けてくれ、体が、など訳の分からないことを並び立て、終いには出勤できないと宣う。
バーナビーは取りあえず状況判断をするために、虎徹のアパートへと向かった。
虎徹の家に行った後、彼をオフィスへ連れて行かなくては行けないため、ヒーロー時に使用するバイクではなく車で迎えに行く。
仮にも一般人と思われている虎徹の家にあのバイクで行くことは叶わない。
万が一バレてしまったら大変だ。

バーナビーは道路脇に車を止めると、アパートのチャイムを押す。
ピンポーンと気の抜ける音が響く。

「…?虎徹さん?」

チャイムを押したのに反応がない。
起きているはずだし、家にいると言っていたのに、どう言うことだろうか。
幾ら何でも起こられるのがイヤだからと逃げたという事も無いだろう。
はて、と首を傾げているとポケットに入れてある携帯が着信を知らせた。
表示された名前を見て更に首を捻る。

「虎徹さ…」

「ば、バニーちゃん!早く来てくれってば!」

着信を取り、呼びかけようとした声を遮られた。

「…今貴方のアパートの前に来てますから、開けてください」

「行けないんだよ!」

「はぁ?」

「ポストに鍵入れてるからそれで入ってきてくれ!」

その叫び声に眉を顰めながらも、ここでの口論は時間の無駄だと、虎徹の言うとおりに行動する。
ポストに手を入れると指先に堅い物が当たる。

「………不用心ですよ…」

兎にも角にも相変わらず耳のそばからは、速く!と急かす声が響くので、その鍵を使って部屋へと入っていく。
部屋に一歩足を踏み入れて違和感を感じた。

「虎徹さん?」

おかしい。気配がない。

確かに部屋に居るはずなのに、物音は勿論、人の気配すらない。
携帯からは相変わらず声がするというのに。

「バニー、ロフトのほう!」

確かロフトはベッドスペースになっていたはずだ。
これだけ気配がないのは風邪でも引いて寝込んでいるからだろうか?
バーナビーはゆっくりとロフトの階段を登る。

「…虎徹さん?」

登り切ったベッドスペースには想像した光景とは違うものだった。
何もないのだ。ベッド以外。
足下の方から見ているので、毛布と、かろうじて枕が見えるくらいだ。
だが、人らしき膨らみはない。

「……」

訳の分からない状況に眉間に力が入る。
暫く携帯から意識も離れていた為、聞こえてきた声に間抜けな反応をしてしまった。

「バニーちゃん!こっち!ベッドの上!」

「は?」

さもベッドからバーナビーが見えているような発言だが、バーナビーにはベッドしか見えていない。
どこかから見ていてからかわれているのだろうか。
探し出してやろうと視線を巡らせていると、枕元に彼の使っている携帯が立てかけてあるか、頭部分だけが見える。
いや、今あの携帯から電話はかかってきて会話をしている。
信じられない思いを抱えながら、ゆっくりと枕元へ足を進めた。

「虎徹、さ…ん…?」

「バニー!!助けてくれ!!」

枕元の前には、携帯を枕に立て掛け、その前にちょこんと座っている、手の平サイズ程の小さな虎徹がいた。




続く












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