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拍手ありがとうございます! いつも皆さまの応援に支えられております。 こちらは大阪にいた頃のお話です。 200話近く前のお話の番外編ですが、楽しんでいただけると幸いです。 でご感想などお気軽にお寄せいただけると嬉しいです!(^^)! 青き踏む secretly まだ大阪にいた頃のこと。 江戸への出航を前日に控え、斉藤は英とともに大坂の町を歩いていた。 城は敵に落ち、幕兵たちは逃げ惑っていたが商人たちは逞しく店を開いて 西国の官軍相手に客寄せをしている。そもそも大坂は極端に武士の数が 少ない商人の町だ、まだ大きな変革が起きたということを理解している者は 少ない。 「もう少し身を隠したほうが良いんじゃないの?」 「いや、敢えて堂々とした方が目立たない」 「そうかな」 英は周囲に視線を向けたが、確かに斉藤はまるでここの住人のように 颯爽と歩いているため馴染んでいるが、英はそうでもない。坊主頭に 目立つ容貌に火傷の痕…普段なら気にしないが、明日には江戸へ向かう 斉藤に迷惑をかけまいと手ぬぐいを被った。 斉藤は怪訝な顔をした。 「堂々としていろと言っただろう」 「そうもいかないよ。俺のことは気にしないでいいから。それより舶来物が 売ってるところなんて、何の用?」 「…」 二人が連れ立って歩いている理由…それは英が加也の手伝いで南部診療所に いた時、斉藤が突然訪れて、 『舶来物が売っている店を知らないか?』 と尋ねてきたからだ。 陰間の頃、大坂から上京する客を相手を務めることも多くそのような流行の 話を耳にしていたので心当たりがあったが、まさか朴念仁の斉藤が そのようなことを言い出すとは。 (まあ…だいたい、察しはつくけれど) 英はわかっていながら悪戯っぽく聞いた。 「舶来物だなんてまさか興味があるわけじゃないよね?」 「…」 「だいたいそんなことを言い出す客は意中の相手に贈りたがるんだよ。 俺も使わない紅なんかをよくもらったけど…?」 「…」 斉藤は頑なに口を閉ざし、答えようとしない。むしろ英が『言いたいこと』が わかっているから敢えて何も言い返さないのだ。 「沖田さんに何を渡すつもり?」 「…別に贈り物のつもりはない」 英が総司の名前を出すと、斉藤は眉間に皺を寄せて渋々答えた。 「…副長からだという指環があるだろう」 「ああ、薬指の?」 「この頃、痩せて指が細くなったせいで良く脱けると言っていたから… 無くさないようにする良い方法がないかと思っただけだ」 「…ふうん」 (相変わらず、イジらしい) 英は内心苦笑した。 恋敵である土方から総司がもらった指環…彼は大事にしているが確かに この頃は外れて無くさないように気を配っていることは英も知っていた。 巾着にでも入れておけば良いと思うが本人は身に付けたいと思って、 まだ総司の薬指に留まっている。 どうやら斉藤は出立を前日に控えた忙しい合間を縫って、総司を案じて 良い手段を探しているらしい。 英は斉藤ともに土佐堀川を越えた辺りにやってきた。 「この過書町辺りはオランダの医学や学問の塾が開かれていて、この先には 長崎の会所がある。だからそういうものを扱っているんじゃないかな」 「なるほど」 斉藤は周囲を見渡して適当に当たりをつけて進み、一軒の店の前に立った。 日用品に紛れて女物の装飾品が並べられていて、総司の指環に近い小さな リングが何個かあった。 英は屈んでその一つを手に取った。 「…いっそ自分が指環を贈ればいいんじゃないの?そりゃ歳さんから もらったものだから蔑ろにはできないけどさ、斉藤さんからも渡せば良いのに」 斉藤の思いを知っているのだから総司だって無碍にはしないだろう…と 英は思ったが、 「必要ない」 と斉藤はあっさり返答した。 「なんで?」 「それは副長のものとは違う。沖田さんは義理堅く受け取るかもしれないが、 一方的な気持ちで足枷を嵌めるようで不本意だ」 「…確かにね、俺も嫌だな」 英にとってはほんの与太話のつもりだったが、確かに彼の言う通り身体の一部と なってしまうような装飾品は軽い気持ちで贈るわけにはいかないだろう。 (悪いことを言った)と思ったが、わざわざ口に出して謝るとますます斉藤の 自尊心を傷つけるような気がして何も言えなかった。 英のそんな複雑な心情を理解したのか、斉藤は鼻で笑う。 「それに副長の二番煎じは御免だ」 「…言えてる」 その一言で本当にただの与太話に変わる。斉藤のこういうところが気が合うと 思うが、英にとって彼はとても遠く手が届かないように思えてそれ以上の距離を 詰めることはできなかったし、最近はそういう気持ちも失せて来た。 (伏見と淀で死線をくぐったせいかな…生きていてくれればそれでいいと思える) 恋だとか愛だとか、そういう絡み合った糸をさらに絡ませて複雑にしていくような 感情は懲り懲りで、いまはシンプルに『幸運を祈って』いる。それは医者として 皆に言えることだけれど、その中で斉藤が特別というただそれだけのことだ。 英が自分の胸の内と向き合っていると、隣にいた斉藤があっさりと 「これにする」 とネックレスを手に取った。ガラス玉が通してあるだけのもので舶来品と いうよりも長崎の子供向けの首飾りのように見えた。 「それ、どうするつもり?」 「ガラス玉を抜き取って代わりに指環を通せば首から下げられるだろう。 そうすれば失くさないし身に着けられる」 「ああなるほど、こういうことにはからきしだと思っていたのにいい考えだね」 「…お前は何か欲しいものはないのか?」 英は立ったままの斉藤を見上げてしばらくじっと見つめた。斉藤はそんな英に 怪訝な顔をしていたが、妙に気が利くように思えて仕方ない。 (朴念仁のくせに…いや深い意味はないのだろうけれど) 「…ここに欲しいものはないよ。そんなの二番煎じどころか、三番煎じじゃないか」 「どういう意味だ」 「今日の礼だというのなら酒でも飲みに行こうよ」 「…お前がそれで良いなら」 斉藤は了承し、店主に金を渡してあっさりと目的を終えた。彼はその足で新撰組と 懇意である京屋忠兵衛から聞いたという飲み屋に向かうというので早速今日の借りを 返してもらうことにした。商人ばかりの飲み屋で武士と坊主の組み合わせは目立つが、 そんな視線はそのうち慣れたし周囲も気にしなくなった。 英は酒を酌み交わしながら訊ねた。 「ねえ、さっきの話だけれど、指環の為にこうやってあれこれ気を回すなんてまるで 敵に塩を送るみたいじゃない?」 「大げさなことじゃない。あの人が大切にしているものを大切にしたいだけだ。 それに…」 斉藤は何かを言いかけて「何でもない」と話を切り上げた。酒のせいか英相手に つい気を許して口にしてしまったという顔をしていたので、英は容赦なく 「それに?」 と先を促す。 斉藤は渋々口にした。 「俺は…すでに安定を渡している。武士にとって一番大切なのはやはり刀だ… これ以上のモノはない」 斉藤は一気に酒を煽って誤魔化そうとしたが、英は「ふっ」と噴き出して笑って しまった。 「ハハ、ハハハハ!なんだ、そうか、そうだったのか」 「…笑うな、忘れろ」 「ハハハ…!」 (この人のなかにこんな稚拙な感情があったなんて!) 無表情で何を考えているのかわからない斉藤の胸の内を、ほんの少し知ることが できた…英は(皆には黙っておこう)とこの喜びを自分だけの秘密にすることにした。 |
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