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拍手ありがとうございます! いつも皆さまの応援に支えられております。 そろそろ終幕です。最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。 為楽 「…ちょう、副隊長…横倉副隊長!」 「!」 部下の丸山に身体を揺さぶられ、横倉はようやく我に返った。 (そうだ…終わったんだな…) 横倉はすでに観客が散り、片付けが始まった処刑場を振り返った。魂の無くなった胴体は土の中に捨てられ、首は塩漬けにされて運ばれた…新撰組局長近藤勇の処刑という見世物に熱狂した野次馬はどこかへ行ってしまったものの、その余韻はまだ漂っている。 横倉の目には首を垂れる近藤の太い首筋が焼き付き、振り下ろした後の柄の感覚も、重たく鈍かった刀の切れ味もはっきりと覚えている。けれどあの一瞬のことはふわふわとして曖昧だ。 「…私は無事にやり遂げたか?」 横倉が丸山に尋ねると彼は怪訝な顔をしながら答えた。 「勿論です。相楽の時と同様…鮮やかなお手並みでした」 「…」 赤報隊の相楽の首を落とした時のことは咄嗟のことでもはっきりと覚えていたが、近藤の死だけは自分がそうしたというのにどこか受け入れ難く呑み込めなかった。 晴れない表情を浮かべる横倉に、部下の丸山は声を潜めて聞いた。 「副隊長…何故そのように近藤に肩入れをなさるのですか。古くからの知人というわけでもないのでしょう…我々は官軍として淡々と命令を実行すべきです」 「…確かに、知り合いではない。この数日言葉を交わしただけだが…」 (俺にはそれで十分だったのだ) 横倉はその先を敢えては口にしなかった。 近藤が武士として凛と佇み、靡くことなく最後の最後まで官軍に屈さなかった。官軍兵が彼の処刑を急いだのは当然だ…己の立場を捨てて逃げ出した将軍に忠誠をつくし志を貫く近藤を見ていると、どこか後ろめたい自分に『恥』を感じずにはいられない。 (俺はあの椿のような武士の首を落とした) きっと生涯にわたってこの複雑な気持ちを抱えていくこととなるだろう。 横倉は小さなため息をつきながら閑散とした処刑場からその外に視線を遣った。総司が見届けた場所にはもう誰もいない。 (…彼はどうなっただろうかな…) 師匠であり兄弟子の死を真っすぐに見つめていた。近くにいた横倉には近藤と総司の視線が交わったように見えたが、実際のところは彼らにしかわからない。 「行きましょう」 「ああ…」 横倉は丸山に背中を押されようやく処刑場を離れたところ、別の部下が駆け寄って来た。 「副隊長、ご苦労様です」 「ああ」 「殿が急ぎお呼びです。なんでも今回の件の報奨金について話があると…」 「報奨金か…」 近藤の首を無事に斬り落とした暁には官軍から金が出るという話は聞いていたが、横倉はあまり重要視していなかった。それどころか褒美を受け取るような気分ではない。 「私は…」 「すぐに行くとお伝えしろ」 横倉の言葉を遮って丸山が指示を出す。部下は踵を返して去って行った。 いつも横倉の指示には服従している丸山だったので驚いた。 「…丸山?」 「副隊長、目を覚ましてください。近藤がどれほど立派で尊敬できる人物であったとしても敵対する賊軍の将であることは変わりありません。それなのにいつまでも彼の肩を持ち、報奨金を辞退するような真似が官軍に伝われば殿のお立場が悪くなります。…副隊長はこんな簡単なこと、お気づきでしょう」 「…」 (ぐうの音も出ない) 横倉は何一つ丸山に言い返すことはできなかった。個人の感傷で殿や部下たちの身を危険に晒すべきではない…淡泊だとしても気持ちを切り替えねばならない。 丸山に諭されて、横倉は 「悪かった」 と謝った。この数日、近藤に肩入れして積極的に距離を縮めている横倉の姿を見て丸山には心配をかけていたことだろう。 横倉は「わかっていただければ」と満足げに頷いて先に殿の元へ向かった。 (私も私の忠義を尽くさねばならぬ…) それがたとえ本音や理想とかけ離れていたとしても、仕える相手は一人しかいない。二君に仕えず…この志を貫かねばならない。 横倉はもう一度だけ処刑場へと振り返った。 椿の花はたとえ落ちたとしてもそこに咲いている。 罪人として首を落とされたとしてもここには武士がいた。 (いつか必ず手を合わせます) 横倉はそんな思いで歩き始めた。 |
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