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花曇り ―りつの手帳2―





無事に跡継ぎを産んだりつはしばらくは産後の身体を休めていたが、

七日が過ぎると娘たちの面倒を見ながら産まれたばかりの赤子を

世話していた。昼夜問わずに泣く赤子に翻弄されつつも、そもそも

産まれてくることさえ難しい男子だったため尚愛おしく感じていた。

その日も昼寝する娘たちを起こさないように縁側に出て抱き続けた。

「…司郎ちゃん、司郎ちゃん…立派なお名前ですねえ」

うとうとし始めた赤子…司郎にりつは微笑みかける。

男の子が生まれた…夫の平五郎は念願の跡継ぎが生まれたと喜び、

すぐに

『宗次郎さんに名前を頂こう』

と提案した。

『宗次郎さんに?』

『逆子が治り安産だったんだ。お前やこの子が助かったのは

 宗次郎さんのおかげだぞ』

りつはうろ覚えであったが、倒れた時に総司と長女のあさが産婆を

呼び、加也や英が駆けつけたことで一命をとりとめたのは間違いない。

『でも…旦那様、宗次郎さんはご立派なお武家様でしょう。

 我が家はしがない植木屋…そのようなお話をすることすら失礼では

 ありませんでしょうか?』

『む…宗次郎さんがそのようなことを気にされるとは思わぬが、

 確かにその通りだ』

平五郎は少し悩んだが、それでも命の恩人に名を頂きたいと頼み、

それは叶った。総司は泣いて喜んだということなのでりつも安堵して

『司郎』と呼んでいる。

柴岡家はしばらくお祝いムードで客人や弟子たちで賑わったが、一方

で総司の方は寝込む時間が長くなってしまった。あさやたねは

遊びたがったがそれはなかなか叶わず、しかも英や加也も表情が固い。

(何かあったのかしら…)

りつは察するが、平五郎からは口出ししないように言われているので

こうやって離れを遠くから眺めているだけだ。

すると司郎が再び目を覚ましてしまいぐずり始めたので、りつは

下駄を履いて庭に出てあやす。今日は日差しが暖かいのですぐに

眠るだろうと体を揺らしていると、離れの方で物音がした。

「あ…」

春の日差しに誘われるように総司が部屋から出て背伸びした後、

縁側に腰かけたのだ。りつと司郎のことは死角になっていて視界に

入っていないのか、彼はぼんやりと空を見上げている。

(お痩せになって…)

ここにきてたった半月ほどだが、それでも痩せたように見えてりつは

同情を禁じ得ない。りつは無意識に司郎をぎゅっと抱きしめていると、

裏口の方から物音が聞こえた。

(土方様…)

りつと同様、総司も突然現れた土方に驚いたが一心不乱に駆け寄り

どこか思い詰めた表情で縁側にいる総司を抱きしめたので、りつは

慌てて背を向けて司郎を抱えて母屋の方へ戻った。

ずっと待ち焦がれていた二人の再会の邪魔をしてはならないと

思ったのだが、

(やっと来てくださったのに…どうしてあんなに悲しいお顔をされて

 いらっしゃるのかしら)

新撰組は五兵衛新田を離れて今は流山にいるらしいと耳にした。

総司には伏せるようにと平五郎は言っていたけれど、あれから何か

あったのだろうか…。

りつが物思いに耽っていると

「お母さま…?」

目を擦りながら長女のあさと、続いてたねが目を覚ました。

「起こしてしまった?」

「ううん…司郎は?」

「今寝たところよ、静かにね」

姉妹は弟の顔を覗き込んだ後、たねが小声で

「宗次郎のところに行ってもいい?」

と訊ねる。子供の扱いが得意な総司は姉妹にすっかり気に入られて、

隙あらば離れの様子を見に行こうとするのだ。

「…うーん、今はやめておきましょう」

「えぇ?どうして?」

「大事な時間だからですよ」

「だいじ?」

姉妹は顔を見合わせて首を傾げたが、りつは司郎を籠に寝かせて

「さあ、母と遊びましょう。カルタやお人形を取ってきてちょうだい」

と二人の背中を押して離れとは遠い部屋へと誘導した。

りつは司郎をゆっくりと竹籠に寝かせてゆらゆらと揺らす。

「…どうか、しあわせに」

りつはすやすやと眠る司郎を見つめながら願うしかできなかった。


















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