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花あわせの第二章になります。第一章はTEXTページをご覧ください。

随時更新します。





花あわせ2





1





人に理解されない。

それは幼少の時に痛いほどに刻みついた。聞いてはいけないものを聞いている

…それが人の心の声であるということに気がつくまで、言葉に素直に返事をしていた。

【気色悪い】

【不気味な子】

子供は不思議そうに首を傾げ、大人は白い目で自分を見て、実の親でさえも呪われた子だと

疎ましい顔をした。

彼らがどんな言葉で自分を蔑んでいるのか…それは心の声を聞かずともわかった。だから必死に

聞かないようにと耳を塞いだ。雨の日は部屋に閉じこもって誰にも会わない。

心の声を雨音に溶かして混ぜて流すように、雑音だと自分に言い聞かせた。

そしてようやくそれが身についた頃、周囲の人々はあの不思議な力はなくなったのだと過信した。

現金なもので自分の身に危険が及ばないとなると、神童だったのだと崇めるような者もいた。

そのように遠ざかっていた人々が距離を縮めようとしたが、今後は自分から離れた。

元通りになるわけがない。

あの醜い心の声を聞いた後では、何を信じればいいのか。

【この子はおかしい】

母は言った。

何度も、何度も、何度も、何度も。

そんな母親に何を期待すればいいというのか。



だからわからない。

どうすれば元に戻れるのだろう。どうすればお前を救えたのか。

心の声は聞こえるのに、何もわからない――――。







夏が終わり、長雨が降り続く日々も過ぎた。秋へと移り変わる空を見上げながら

総司はわざとらしくため息をついた。

「土方さんのせいですからね」

そう言っても、件の本人はまるで何も聞こえていないかのように涼しい顔で筆を持っている。

総司は仕方なく、障子を閉めて土方の前に膝を折った。

「聞こえてます?」

「…聞こえてる」

「じゃあ返事してください。上坂さんの件、どういうつもりなんですか?」

あれから数日が経った。

上坂幸太郎の親友である宮川数馬に間者の疑いが浮上した。彼が親しくしていた女が長州と

通じているという監察からの報告が上がったからだ。

普段なら慎重に裏を取って動かぬ証拠を得た後で行動に移す土方だが、今回に限っては

心の声が聞こえる幸太郎を嗾けてやや強引にことを終わらせた。総司は面倒ごとを幸太郎に

押し付けたのだろうと思っていたが、あれからすっかり幸太郎と数馬の距離は開いてしまった。

「ただでさえ突然一番隊へ異動になって周囲からの風当たりが強かったのに…今回のことで

 すっかり意気消沈してしまっているんです。仕事はこなしていますけど、心ここに在らずというか…」

「俺は上坂に宮川の無実を証明しろと言っただけだ」

「雨の日に、人の心の声が聞こえるのに、上坂さんにそう言ったんですよね?それは

 『心の声を聞いてこい』というのと同義じゃないですか?」

「…さあな」

「意地悪ですね」

土方は『新撰組の鬼副長』として手段を選ばない。今回のことも例外ではなく、使えるものは使う…

ということだったのかもしれないが。

(あまりに…辛い結果だ)

彼が何を聞いていたのか…それは総司にはわからないが、唯一心を許していた親友から拒まれれば

ショックを受けるのは当然だ。これまで築き上げていた物が崩れ去ってしまったのだから。

総司がもう一度ため息をつくと、土方はようやく筆を置いた。

「…お前がそこまでいうなら、上坂には休暇を与える。三日もあれば気分転換ができるだろう」

「じゃあ宮川さんにも同じようにしてください。三日もあれば仲直りができるでしょう?」

「…ガキじゃあるまいし…」

総司の提案に土方は苦笑したが、「わかった」と了承した。しかし釘を刺した。

「言っておくが、おそらくお前が思っているようなガキの喧嘩のような単純な話じゃねえからな」

「まあ…何も知らないまま心の声を聞かれていたという宮川さんの心情を考えれば、

 単純な話じゃないとは思いますけど」

「そうじゃない。上坂が心の声を聞いていただけであそこまで抉れないだろう。おそらく宮川の…

 聞いてはいけない邪なことを、上坂は知ってしまった。だから距離を置いているんだろう」

「邪なこと…?」

邪な、と聞いて思い浮かぶのは隊を裏切るようなことだが、すでに間者の疑惑なら晴らしている。

それ以外の邪なことなど総司には思いつかない。その様子を見ていた土方はふん、と息を吐いた。

「あとは二人に任せておけ」

「…」

土方はそう言い放つと、再び筆を取る。

きっと土方は何かに気がついている。それは監察からの情報なのか、彼自身の野生の勘なのかはわからない。

きっと誰にも…土方にしかわからない。

(心の声か…)

自分の意思とは関係なく雨の日に聞こえてくるのだと語った幸太郎は、迷惑な力だと言わんばかりの

表情だった。そのせいで幼少の頃から酷い扱いを受けてきたのだから当然だろう。

(でも一度は聞いてみたいな…)

目の前の彼が何を考えているのか。

何もわからない自分に、何ができるのか。

それを知りたいと思うのは、わがままなのだろうか。




































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