酒と男と喧嘩な話(1)

気付かねぇほど馬鹿じゃねぇ。



野郎も、見かけよか頭空っぽじゃねぇんだ。どっかで気づいちゃいるだろう。

俺達の間におかしな関係があることを。



 吹き抜ける風が、心地よい。
夕立が過ぎ去った夏の夜というのは、独特の雰囲気を持つ。
この微かに雨の匂いを含んだ風が好きで、この時分は無理にでも仕事を早めに終わらせる。
特に、今日は。

 今年の初モノの酒が今夜店に出るからどうだい、と声をかけられたのは昨日の巡回中。しかし、屯所で待つ書類の山を考えれば、到底酒に舌鼓をうっていられる状況ではなかった。
すまないな、と苦笑いしながら、明日なら顔を出せるだろうと店主に告げたのだ。

 初モノの酒を初日に呑めるというのは、えもいわれぬ贅沢感がある。
今年の質や香りの違いを店主などと語らいながらの一杯。それは、不思議と美味な肴となるのだ。
したがって、逃すのは勿体ないのだが仕方ない。

 懐からライターを取り出し、手で覆うようにして煙草に火をつければ、遠目に見慣れた紅ののれんが目に入った。
今日必死で仕事を片付けたんだ。オヤジの旨ェ飯でも食って、明日の非番は――


 意気揚々と久しぶりの休日の予定を考え始めたものの、幸せな時間は続かない。
俺は、店の前に踊り出た白い物体に、思わず咥えたばかりの煙草を落としそうになる。

「よォオヤジー、入ったんだと?」

 爆発にでも巻き込まれたのかという天パ。目立つ髪色。死んでんだろといいたくなる目。だらしねぇ服装。
数多くいる嫌ェな人間の中でもかなりのハイスコアをたたき出す男。

「おォ銀さん!どうしたんだい、昨日は?こなかったじゃないか」




――あぁ、なんだって今日はこんなツイてねぇんだ。



<つづく>



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