酒と男と喧嘩な話(3)

 目の前に並々と酒が注がれていくと共に、芳香が辺りへ広がっていく。
自然と顔がほころぶのが、自分で手にとるように分かる。

 それもその筈だ。
いつもの、周りに押し付けられ、あまつさえ流し込むようにして食らう酒ではない。
 自ら、この為に仕事を必死で終わらせてまで望んだ酒だ。
ごくりと喉がなる。
 今年初めての地酒。
果たして、今年はアタリかハズレか……。

「お、うめぇ!!」

 いざ、と杯に口をつけた瞬間に上げられた脳天気な声に、何かがピンと張った感じがした。
そう、例えば『堪忍袋の緒』のような……。

「今年のはアタリじゃねぇかオヤジぃ。こりゃ酒蔵のジジィにお誉めの言葉を贈呈しにいかにゃ」
「そうだろう?口当たりはまろやかだし、香りは抜群だし!後味もさっぱりしてて後をひくしなァ。こいつァここ数年の中でもかなりの上玉だいなァ」

 賑やかに語り出す2人を尻目に、完全にタイミングを逃した俺は気合いを入れ直すように唇を舐めた。
じゃぁオヤジがそれほど評価する酒とはいかなるものか――。

温めの燗が唇に触れる感覚。嗅覚を刺激する豊かな香り……。

「あ」

……あ?

「ちょ、土方さんアブねぇ!!」

アブねぇって一体何が……
そう思った時だった。


 後頭部に強い衝撃。
そして、鼻孔に流れ込む流動物の気配――。

「ゲホッ……がはっ、っ――てェエ!!!」
何が当たったんだか知らんが後頭部痛ェ!!つかそれよか鼻!鼻痛ェエエエ!!

「わっりィねぇ副長さん。木刀抜いたらアタマに当たっちまってよォ」

……そうか、今の衝撃はこいつの木刀があたった衝撃か……。

「そうか……てんめぇが俺の初モンの酒駄目にしやがったのくァアアアアアア!!!」
「ちょ、土方さん落ち着いとくれよォ!!」

 オヤジにゃ悪ィが落ち着いちゃいられねぇ!!
この腐れ天パのせいで一年の楽しみがパァじゃねぇか!!
パァなのはテメーの髪と頭だけにしとけってんだァ!!!

「なんなんですか、チンピラ警察24時?駄目になんかしてないじゃないですかァ」
「どこがだァアア!!」
「いや、だからァ」


「ちょっと入り口間違っちゃっただけで、ちゃんと鼻の穴から飲めたじゃねぇか」


……そうか、やっぱりあのピンと張った感覚は堪忍袋の緒だったんだな……。

俺は人体の神秘を感じながら、腰から抜き去り足元に置いていた刀へ手をかけた。


「消えろクソ天パァアアアアアアア!!!!!」



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