ひとつひとつに思いを馳せてはいけない。思い出に浸ったり、懐かしんだりしてはいけない。何も考えない。ただただ反射でいらないものをかき分けて捨てる。世間とのつながりを思い出させるようなものは、私たちの部屋には必要ないのだ。

 写真も、コンビニのレシートも、ダイレクトメールも。どうして私たちを放っておいてくれないんだろう。どうして私たちを二人きりにしておいてくれないのだろう、どうして私は二人きりになりたいのだろう、どうして静雄は私と二人きりじゃだめなんだろう。私はそれだけで構わないのに、どうして静雄は、私以外の誰かともつながりを求めるんだろう。

 たとえば静雄がいつも着ているあの服だって、目立つ色をした携帯電話だって、煙草だって何だって。私は捨ててしまいたいのだ。私以外の誰かを思い出させるもの、私以外の誰かと静雄が繋がっている証し。私がいなくても、いなくなったとしても、静雄は誰とでも生きていける。私がそうでないのとは違って。

 私以外の誰かと過ごした時間について楽しそうに話さないで。
 私と一緒に過ごして、私と感情を共有して、解りあって、抱き合って眠るだけじゃどうしてだめなの。
 ――どうしても、だめなの?

 ひとつ、またひとつ。私は泣きながら私の部屋からいらないものを捨てていく。昔の私にとって必要だったもの、だけど私と静雄の世界には必要のないものを。いらないものをそぎ落としていけば、この理由のない不安が消えるような気がして。


 たとえば静雄の人生から私自身を捨ててしまえたなら、その時、私はもう泣くこともなくなるんだろうか。
 からっぽの部屋に立ち尽くして、たまにそう、思う。




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