君の涙の色を僕は知っている


 放課後の校庭
 昇降口の正面に 君はいた


「河田(カワダ)・・・」


 その日はどしゃぶりの雨の日だった
 幼馴染の君はその雨の中 傘もささずに佇んでいた





  ... 君の涙の色を僕は知っている ...





「河田・・・」


 名前を呼んでも君はこっちを見ようともしない 
 無視をしているわけではなく 僕の声が届いていない 
 君の頭の中はある男のことでいっぱいだから


「潤(ジュン)ちゃん!」


 昔みたいに呼んでみると 君はゆっくりと顔をあげた
 焦点の定まらない虚ろな瞳に映る 小さな僕の姿
 その瞳は何とも言えない色をしていて…とても 綺麗だった


「こっちおいでよ。風邪ひくよ…?」


 君は静かに首を振る 縦ではなくて横に…

 
「雨、好きなの?」

「……別に」


 掠れた声がやっとのことで耳に届いた

 君が一人になりたがっているのは知っていた
 でも一人にしてしまったら 君が消えてしまうような気がして…
 僕は君から目を背けて歩き出すことができない

  

 僕がさす傘から雨の滴が次々と滑り落ちていく
 僕は一歩、二歩と彼に近づいていった


「……」

「ねぇ、潤ちゃん?」

「…ん?」

「泣かないで」

「泣いてなんかねぇよ」


 君は昔からそうやって 強がりばかり言っていた


「泣かないで」

「泣いてねぇ」


 ぅうん 泣いてるよ 
 頬を伝う滴は雨なんかじゃない

 だって僕は…
 







 君の涙の色を知っている.....









「沢野のこと好き?」

「あんな奴、好きでもなんでも…ねぇ」


 本当は好きなくせに 好きで好きでたまらないくせに
 どうして強がって隠そうとするの?
 男同士とか そういうのを飛び越して
 君が沢野に惚れていたことなんて すっかりお見通しだよ

 沢野に彼女がいたから 君は泣いてるんだよね
 僕じゃぁ沢野の代わりにはなれないかな?


「潤ちゃん」

「ん?」

「泣かないで」

「だから泣いてねぇって言ってんだろ!」

「泣いてるじゃん!」

「…泣いて…ねぇ……」

「泣いてる!」

「…っ……っく…」


 君は無言で首を横に強く振った
 頬を幾重にも伝う涙を振り払うかのように
 頭の中をいっぱいにする 愛しい人の顔をかき消すかのように

 彼の震えた唇からは嗚咽が漏れるばかりで言葉にならない










 誰かを想って流す涙は 何でこんなにも綺麗なんだろう....










 
 俺は傘を地面に捨て 君を抱き寄せた
 捨てられた傘は いつもとは逆さの向きで 雨を受け止めていた


「潤ちゃん…僕じゃ駄目?」

「聖慈(セイジ)……」

「僕じゃぁ沢野の代わりになれない?」

「………」

「ずっと潤ちゃんのこと好きでいるって約束するよ?」

「………」


 君は僕の言葉に何も言わなかった
 それから僕が君に優しいキスをしても 君は何も言わなかった

 ただ ただ黙って 虚ろなその瞳から涙をこぼしていた






 涙雨は しばらくの間 冷たく降り続いた





感想などありましたらどうぞ(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。