―― good morning day ――
「ねぇ」
朝陽の中で、かける声は白々と透けていく。
男の声は透徹だった。
凍てついて氷より蒼い。
静雄は身震いするでもなく、ぼんやりとベッドに持たれかけていた。
自分の部屋ではない。
この男の部屋だ。
冷たいフローリングが、素足とケツに当たってそのまま寒さが這い上がってくるように思えたけれど、いっそそれが心地よかった、汚れた足の下で、他には汚れ一つないベージュ色の板目が、ところどころに白いシミをつけていて、それはとりわけ自分のケツの下が酷い。
早く処理してしまわないと、後々酷いことになる。
わかっていても怠い躰は動く気を失せさせた。
ただ、手探りで探り当てた煙草に火をつけて煙を吐き出す動作だけ。
それでさえ酷く億劫で。
対する男のベッドに転がって、多分意味もなく天井を見上げたりしているのだろう、静雄がこんな状態なのは間違いなく男のせいだったけれど、男はいつだって自分だけさっさと休む体勢に入ってしまうのだ。
そんなこと、それこそ今更で。
「シズちゃんってさぁ・・・俺のこと、好き?」
応えない静雄に構わずに、男の声が続く。
滑稽とも言えるような問い。
多分、男も、解っていて口に出したのだろう。
静雄は咥えていた煙草をいったん口から放して、深く。
深く、長く息を吐き出した。
白い煙が棚引く様を、見るともなく目で追う。
「・・・・・・・・・大っ嫌いだ」
応えた言葉は苦かったのに。
それだのに、何故煙草の苦味より、よほど甘く思えたのだろうか。
ケツの下が酷く冷たいけれど、動く気には到底ならない。
後ろで、シーツの衣擦れがごそごそと動いた音がした。
男が寝返りでもうったのかもしれない。
酷くどうでもいいと思って、また一つ、息を吐き出す。
白い煙が明けてゆく朝の間でぼんやりと視界を侵し、色眼鏡を通さない朝は、静雄にとっては非日常でしかない。
こんな朝も。
今はもう慣れるほどに繰り返したと言うのに。
「だよねー、俺も大嫌いー」
あはは。
男が乾いた声で笑った。
砂漠の砂よりも乾いた声が、空気に溶けて落ちるけど、だけどどうしてだろう、その声は虚しく、だのに真実なのだ。
静雄は瞼を閉じた。
それは、世界と静雄と遮断する薄い膜で、男はもう何も言わなかった。
白々と朝が明けていく。
明るさを増していく、いっそ空々しいほど小奇麗な部屋の中で。
躰だけが寒い。
「っち」
小さく落とした舌打ちは、誰にも拾われることもなく。
吐き出した息の白が、部屋に溶けた。
朝のことだった。
Fine.
>>二人して受け入れてるんだか受け入れてないんだか微妙。
(2010. 3. 7up)
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